電気のチカラでゴミから宝物を作る魔法の石
みなさんは、ゴミから宝物を作れたらいいなと思ったことがありますか?おとぎ話に出てくる「わらを金に変える」魔法のような話です。実は、科学者たちは本当にそんな「魔法」を研究しているんです!今日は、汚れた水の中の硝酸塩(しょうさんえん)というゴミを、アンモニアという宝物に変える魔法の石についてお話しします。
この魔法の石は「ペロブスカイト」(ぺろぶすかいと)という特別な結晶で、電気を使って化学反応を起こす「電気化学反応」(でんきかがくはんのう)の助けとなります。まるで料理の鍋に入れる「隠し味」のようなものです!
お料理と同じでコツがある化学反応
みなさんはお母さんやお父さんがお料理するのを見たことがありますよね。火加減やかき混ぜるタイミングなど、おいしい料理にはコツがあります。
科学の世界でも同じです。アンモニアは農業で使う肥料や、未来のきれいなエネルギー源になる大切な物質です。でも、アンモニアを作るには通常とても多くのエネルギーが必要です。世界中で毎年1億5000万トン以上のアンモニアが作られていて、その製造には世界のエネルギーの1〜2%も使われています。これは地球温暖化にもつながっているのです。
科学者たちは、もっと少ないエネルギーでアンモニアを作る方法を探しています。そこで注目されているのが、硝酸塩(しょうさんえん)という物質です。これは工場の排水や汚れた地下水に含まれている環境汚染物質ですが、電気の力でアンモニアに変えることができるんです!まさにゴミを宝物に変える魔法のような反応です。
何が問題だったの?:回転する電子のダンス
ただ、この「ゴミから宝物」を作る反応には大きな問題がありました。それは反応がとても遅いことです。
これを理解するために、小さな「電子」というものについて考えてみましょう。電子は原子の周りをクルクル回っています。この電子には「スピン」という性質があり、まるで小さなコマが回っているようなものです。
図1の説明: この絵は、コバルトという金属のスピン状態(回転の状態)を変える方法と、その効果を示しています。上の絵(a)では、特別な方法でコバルトの電子の回り方を変えています。下の絵(b, c)では、普通の材料(LEPO)では反応が遅いけど、新しい材料(HEPO)では反応が速くなることを表しています。
普通のペロブスカイト(LaCoO3)では、コバルト(Co)という金属の電子があまり上手にダンスをしません。そのため、硝酸塩と反応するのが遅いのです。これは、ダンスパーティーで壁際に立っている人のように、あまり積極的ではないんですね。
新しい魔法の石:5つの王様がいる特別な城
そこで科学者たちは、新しい魔法の石を作りました。その名前は「(La0.2Pr0.2Nd0.2Ba0.2Sr0.2)CoO3-δ」(LPNBSC)です。とても長い名前ですが、これは5種類の金属(La, Pr, Nd, Ba, Sr)を混ぜて作った特別なペロブスカイトなんです。
通常のペロブスカイトは1人の王様(La)がいる城のようなものですが、この新しい魔法の石は5人の王様が同じ城に住んでいる状態です。これを高エントロピーペロブスカイト酸化物(HEPO)と呼びます。
図2の説明: この絵は、新しく作った魔法の石LPNBSCの形と構造を示しています。上の絵(a)はX線で調べた結晶の構造で、(b)は魔法の石の構造の模式図です。下の方の絵(c-g)は、特殊な顕微鏡で見た魔法の石の写真と、中に含まれる金属元素の分布を示しています。
この新しい魔法の石は、小さな球のような形をしていて、大きさは約50~70ナノメートル(髪の毛の太さの約1000分の1)です。5種類の金属がバランスよく分布していることが確認されました。
魔法の石のひみつ:電子のダンスパーティー
この新しい魔法の石のすごいところは、中のコバルト(Co)の電子が活発にダンスするようになることです!
図3の説明: この絵は、普通の石(LaCoO3)と新しい魔法の石(LPNBSC)の電子の状態を比べています。上の部分(a, b)は特殊な装置で測定した電子の状態で、中央部分(c, d)は、電子がどのようにエネルギーを吸収するかを示しています。下の部分(e)は、魔法の石の中でコバルトの電子がどのように並んでいるかを説明しています。
科学者たちが詳しく調べると、魔法の石の中では酸素の欠陥がたくさんできていることがわかりました。これはちょうど、城の中に秘密の部屋ができたようなものです。そして、この秘密の部屋のおかげで、コバルトの電子はより自由に動けるようになったのです。
普通のペロブスカイト(LaCoO3)では、コバルトは6個の酸素に囲まれた[CoO6]という構造でしたが、新しい魔法の石(LPNBSC)では、5個の酸素に囲まれた[CoO5]という構造になりました。これによって、コバルトの電子は「低スピン状態」から「高スピン状態」に変わり、まるでダンスパーティーで積極的に踊り出したような状態になったのです!
実験結果:ゴミから宝物への変身がもっと速く
この新しい魔法の石で実験をしたところ、すごい結果が出ました!
図4の説明: この絵は、実験結果を示しています。上の部分(a-d)は、普通の石と魔法の石でアンモニアを作る能力を比較しています。魔法の石は普通の石の約3倍の速さでアンモニアを作ることができます。中央部分(e, f)は、本当に硝酸塩からアンモニアができているか確認する実験です。下の部分(g, h)は、魔法の石が何回使っても性能が落ちないことを示しています。
最適な条件(-0.7Vの電圧)で、魔法の石LPNBSCは1時間あたり129マイクロモルのアンモニアを作ることができました。これは普通のLaCoO3の約3倍もの生産量です!また、電気の効率(ファラデー効率)も76%に達し、LaCoO3の約2倍になりました。
科学者たちは、この反応がどのように進むのかも調べました。オンライン質量分析計という特別な機械で、反応の途中で何ができるかを観察しました。その結果、硝酸塩→亜硝酸→一酸化窒素→アンモニアという順番で変化することがわかりました。
図5: eNRA反応メカニズムの研究と亜鉛-硝酸塩電池への応用
図5の説明: この絵の上の部分(a, b)は、アンモニアが作られる過程を詳しく調べた結果です。魔法の石を使うと、特にHNO3からNO2という段階の壁(活性化エネルギー)が低くなることがわかります。これはちょうど、山を登るときに低い山道を見つけたようなものです。
電池にも使える!:電気も生み出しながらゴミ処理
この魔法の石はただゴミを宝物に変えるだけではありません。亜鉛-硝酸塩電池という特別な電池にも使えるんです。
[図5の説明の続き:] 下の部分(c-h)は、魔法の石を使った亜鉛-硝酸塩電池の実験結果です。この電池は電気を作りながら、同時に硝酸塩をアンモニアに変えることができます。魔法の石を使った電池は、普通の石を使った電池よりも高い電圧と出力を示しました。
この電池は汚れた水から電気を取り出しながら、その水をきれいにしてアンモニアも作ることができるのです。これはまるで、ゴミを拾いながら、お小遣いももらえるようなものですね!
実験では、魔法の石LPNBSCを使った亜鉛-硝酸塩電池は最大82%の効率でアンモニアを生産し、1時間あたり57マイクロモル/cm²という高い生産速度を達成しました。これは普通のLaCoO3を使った電池の1.6倍です。
この研究がすごい理由:環境にやさしい未来への一歩
この研究がとても大切な理由は、環境問題とエネルギー問題の両方を同時に解決できる可能性があるからです。
今、世界中で問題になっている環境汚染物質の一つが硝酸塩です。これが川や地下水に入ると、水が汚れて生き物に悪い影響を与えます。
一方で、アンモニアは農業に欠かせない肥料の原料であり、将来は水素の代わりに使えるクリーンなエネルギー源としても注目されています。
この魔法の石を使えば、汚染物質の硝酸塩を取り除きながら、有用なアンモニアを作り出せるのです。しかも、この反応を利用した電池は、浄水しながら電気も生み出せます。
これは、ごみ拾いをしながらお宝も見つけて、さらにお小遣いももらえるという、三倍もお得な方法なのです!
まとめ:この研究でわかったこと
- 科学者たちは、5種類の金属を混ぜた特別なペロブスカイト酸化物(高エントロピーペロブスカイト)を作りました。
- この新しい材料では、コバルトという金属の電子が高スピン状態になり、より活発に反応できるようになりました。
- その結果、環境汚染物質の硝酸塩から、有用なアンモニアを作る反応が3倍速くなりました。
- この材料を使った亜鉛-硝酸塩電池は、電気を生み出しながら水をきれいにし、アンモニアも生産できました。
- この技術は、環境問題とエネルギー問題の両方を解決する可能性があります。
この研究は、私たちの未来のために、汚染物質を資源に変える新しい方法を示してくれました。これからの科学の発展が楽しみですね!
原論文の引用情報
Guo, H., Zhou, Y., Chu, K., Cao, X., Qin, J., Zhang, N., Roeffaers, M. B. J., Zbořil, R., Hofkens, J., Müllen, K., Lai, F., & Liu, T. (2025). Improved Ammonia Synthesis and Energy Output from Zinc-Nitrate Batteries by Spin-State Regulation in Perovskite Oxides. Journal of the American Chemical Society, Published online January 16, 2025. https://doi.org/10.1021/jacs.4c12240