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コロナウイルスの鍵を壊す特別な鍵屋さん

みなさん、ドアに鍵がかかっていて開けられなかったことはありますか?そのときは、鍵を持っている人か鍵屋さんに助けてもらいますよね。実は、私たちの体に侵入しようとするコロナウイルスも、私たちの体という「お家」に入るために特別な鍵を使っているんです!

科学者たちは、このコロナウイルスの鍵を壊す特別な鍵屋さん(お薬)を作る研究をしています。今回の研究では、コロナウイルスが使う2種類の鍵を同時に壊せる、とても優れた鍵屋さんを開発しました。これは、泥棒(ウイルス)が家(細胞)に侵入するのを防ぐ、優れた防犯システムのようなものです。

コロナウイルスはどうやって私たちの体に入るの?

コロナウイルスが私たちの体に入るときには、2つの重要な「鍵」を使います。最初の鍵はカテプシンLという名前で、これは私たち人間の体が持っている鍵です。ウイルスはこの鍵を借りて、体の細胞というお家のドアを開けようとします。

もう一つの鍵は3CLプロテアーゼという名前で、これはウイルス自身が持っている鍵です。ウイルスが体の中に入った後、この鍵を使って自分自身をたくさん複製(コピー)するのです。これは、泥棒が家の中に入った後、友達の泥棒をたくさん呼んでいるようなものです!

図1:ウイルスが使う2つの鍵

図1の説明: この図は、2つの鍵(カテプシンLと3CLプロテアーゼ)が好む鍵穴の形を示しています。真ん中には、現在使われている薬(ニルマトレルビル)の構造が描かれています。この薬は3CLプロテアーゼだけを止めることができます。下の部分には、他の薬の構造が示されています。

今あるお薬の問題点は?

今、COVID-19という病気の治療に使われている主なお薬はパキロビド(Paxlovid)というお薬です。このお薬に含まれるニルマトレルビルという成分は、ウイルスの3CLプロテアーゼという鍵を壊すのをとても得意としています。でも、カテプシンLという鍵は壊せません。

これは、家の正面玄関の鍵は壊せるけど、裏口の鍵は壊せないセキュリティシステムのようなものです。賢い泥棒(変異したウイルス)は、「じゃあ裏口から入ろう!」と考えるかもしれません。

さらに問題なのは、コロナウイルスは時々姿を変える(変異する)ことです。これは、泥棒が変装して警備員をだますようなものです。ウイルスが変異すると、今のお薬が効かなくなる可能性があるのです。

2つの鍵を同時に壊す新しいお薬

科学者たちは、「どうしたら2つの鍵を同時に壊せるお薬が作れるだろう?」と考えました。そこで、グルタミンという特別な形の鍵に注目しました。

グルタミンは、3CLプロテアーゼの鍵穴にぴったり合う形をしています。でも、カテプシンLの鍵穴には合いません。科学者たちは、グルタミンに少し似ているけれど、両方の鍵穴に合う新しい形を探しました。

それが2-ピリドン-3-アラニルという特別な形です。これは、まるで万能キーのように、両方の鍵穴に合うことができるのです!

図6:お薬が鍵穴にどうやって結合するか

図6の説明: この図は、いろいろなお薬がどのように3CLプロテアーゼという酵素に結合するかを示しています。上の段は今あるお薬、中段と下段は新しく開発されたお薬です。すべてのお薬は、酵素の中心にあるシステイン145というアミノ酸と結合しています。

科学者たちはどうやって新しいお薬を作ったの?

科学者たちは、まず分子の設計図をコンピュータで描きました。そして、化学実験室で実際にその分子を作りました。これは、おもちゃのブロックを組み立てるようなものですが、分子はとても小さいので特別な方法で組み立てる必要があります。

作った分子が本当に酵素を止められるかどうかを確かめるために、酵素アッセイというテストをしました。さらに、本物のコロナウイルスを使って、作った分子がウイルスの感染を防げるかどうかも調べました。

最後に、X線結晶構造解析という特別な方法を使って、分子が酵素とどのように結合するかを調べました。これは、特別なカメラで分子の写真を撮るようなものです。これによって、なぜある分子が他の分子よりも効果的なのかを理解することができました。

図7:3つの新しい分子の比較

図7の説明: この図は、3つの新しい分子(化合物6、7、8)がどのように3CLプロテアーゼに結合するかを示しています。左側が2-ピリドン-3-アラニル、中央がピリジン-3-アラニル、右側が1,3-オキサゾ-4-アラニルです。2-ピリドン-3-アラニルが最も強く結合することができます。

この研究はなぜスゴイの?

この研究は、COVID-19の治療に使える新しいお薬の可能性を示しています。特に素晴らしいのは、一つのお薬で2つの標的(ターゲット)を攻撃できることです!

これは、一人の警備員が正面玄関と裏口の両方を同時に見張れるようなものです。こうすれば、どちらの入り口からもウイルスが侵入するのを防げます。

さらに、3CLプロテアーゼが変異してお薬が効かなくなっても、カテプシンLは人間の体の一部なので変異しません。そのため、この新しいお薬はコロナウイルスが変異しても効果を保ち続ける可能性が高いのです。

これはまるで、泥棒が変装して警備システムをだましても、指紋認証システムでは識別されてしまうようなものです。二重の防御があれば、一方が破られてももう一方で守ることができますね。

まとめ:この研究でわかったこと

  1. コロナウイルスは私たちの体に入るのに2つの鍵カテプシンL3CLプロテアーゼ)を使います。
  2. 今あるお薬(パキロビド)は3CLプロテアーゼだけを止めることができます。
  3. 科学者たちは両方の鍵を同時に壊せる新しいお薬を開発しました。
  4. この新しいお薬のカギは2-ピリドン-3-アラニルという特別な形です。
  5. この新しいお薬は、ウイルスが変異しても効果が続く可能性があります。
  6. この研究は、より安全で効果的なCOVID-19治療薬の開発につながります。

原論文の引用情報

Kumar, V., Zhu, J., Chenna, B.C., Hoffpauir, Z., Rademacher, A., Rogers, A.M., Tseng, C., Drelich, A., Farzandh, S., Lamb, A.L. & Meek, T.D. (2025). Dual Inhibitors of SARS-CoV-2 3CL Protease and Human Cathepsin L Containing Glutamine Isosteres Are Anti-CoV-2 Agents. Journal of the American Chemical Society, 147(1), XX-XX. https://doi.org/10.1021/jacs.4c11620

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