CO₂から酢酸を作る銅の魔法使い
みなさんは、料理で使う「お酢」を知っていますか?酢の物やピクルスなど、お酢はいろいろな料理に使われていますね。この「お酢」は、普通は石油から作られています。でも、地球にやさしい方法で作れたら素敵ですよね。今日は、「銅の魔法使いチーム」が電気の力でCO₂(二酸化炭素)からお酢の主成分「酢酸」を作る素敵な方法についてお話します!
魔法使いになれる「銅」と「場所取りゲーム」
みなさんは、ドッジボールをしたことがありますか?選手たちがどこに立つかで、ボールの投げ方や取り方が変わりますよね。実は、「銅の原子」も同じなんです!銅の原子が、どんな場所に、どんな距離で並ぶかによって、CO₂から作れるものが変わってくるんです。
科学者たちは、銅の原子をとても小さな「原子集合体(げんししゅうごうたい)」という形にしました。これは、まるで仲良し小学生が手をつないで輪になっているようなものです。この銅の原子たちが、ぴったりの距離で並ぶと、CO₂から酢酸への魔法の変身が上手くできるようになります!
もし銅の原子同士が遠すぎると、手が届かなくて魔法がうまく使えません。逆に、普通の銅の「ナノ粒子」(とても小さなつぶつぶ)だと、原子たちがごちゃごちゃしすぎて、別の方向の魔法(エタノールやエチレンという物質を作る魔法)を使ってしまいます。
図1の説明: 上の部分(a)は、銅の場所によって、どんな魔法(反応経路)が使えるかを示しています。銅の原子集合体(Cu AEs)では、*CCOという特別な魔法の道具を使って酢酸を作れます。真ん中の部分(b)は、銅の原子が並ぶ距離が違うモデルを示しています。下の部分(c-g)は、理論計算の結果で、銅の原子集合体が2.6Åという絶妙な距離で並ぶと、酢酸を作る魔法が一番うまく使えることがわかります。
魔法の杖「窒素」と「銅の原子集合体」の作り方
魔法使いには魔法の杖が必要ですよね。この実験では、「窒素(ちっそ)」が魔法の杖の役割をします。窒素は銅の原子をしっかり支えて、ちょうどいい場所に固定してくれるのです。
科学者たちは、まず炭素の上にたくさんの窒素を置き、その上に銅の原子をたくさん並べました。そして、「電気化学」という特別な方法で魔法をかけると、銅の原子たちが少しずつ移動して、ぴったりの距離で並んだ「銅の原子集合体(Cu AEs)」ができあがりました!
これは、まるで学校の運動会で、バランスのいい綱引きチームを作るように、適切な場所に適切な力持ちの友達を並べるようなものです。このようにして作られた銅の原子集合体は、CO₂から酢酸を作る最高の魔法使いチームになりました!
図2の説明: 上の部分(a-d)は、銅の原子集合体の姿を特殊な顕微鏡で見たものです。銅の原子たちが約3.0Åという絶妙な距離で並んでいることがわかります。中央の部分(e-g)は、銅の原子がどんな状態にあるかを調べた結果です。下の部分(i)は、三つの触媒(Cu AEs, Cu SAs, Cu NPs)の構造の違いを示しています。銅の原子集合体(Cu AEs)は、銅の原子が窒素と結合しながら、絶妙な距離で並んだ特別な構造をしています。
銅の魔法使いチーム「原子集合体」の素晴らしい力
さあ、いよいよ銅の魔法使いチームの実力を試す時が来ました!科学者たちは「フロー電解セル」という特別な装置を使って、三つの違う銅(Cu AEs, Cu SAs, Cu NPs)がCOから酢酸をどれだけ作れるか競争させました。
結果は大成功!銅の原子集合体(Cu AEs)は、COの70.2%も酢酸に変えることができました。これは、100個のCO分子のうち、70個以上を酢酸に変えられるということです。普通の銅のナノ粒子(Cu NPs)は、酢酸よりも他の物質(エタノールやエチレン)をたくさん作ってしまい、酢酸は24.1%しか作れませんでした。
さらに、銅の原子集合体は、1平方センチメートルあたり毎時2.1ミリモルという、とても速い速度で酢酸を作ることができました。これは、小さな切手くらいの面積で、毎時126ミリグラムの酢酸が作れるということです。速さも量も、これまでの記録を大きく上回る素晴らしい性能でした!
図3の説明: 上の部分(a-c)は、三つの銅触媒がどんな物質をどれくらい作るかを示しています。銅の原子集合体(Cu AEs)は、酢酸を主に作りますが、銅のナノ粒子(Cu NPs)は、エタノールやエチレンをたくさん作ってしまいます。中央の部分(d-g)は、触媒の性能を比較しています。銅の原子集合体は、酢酸を作る速さ(225 mA/cm²)、量(70.2%)、割合(C2+製品中の80%)のどれをとっても優れています。下の部分(h)は、長時間使っても性能が落ちないことを示しています。140時間使っても、まだまだ酢酸をしっかり作り続けられます!
「道しるべ」を選ぶ魔法の仕組み
銅の原子集合体がなぜ酢酸を上手に作れるのか、その秘密を探るため、科学者たちは「赤外線分光法」という特別なカメラで、魔法が起きている瞬間を観察しました。
一酸化炭素(CO)が酢酸に変わる道には、いくつもの分かれ道があります。銅の原子集合体は、「ケテン(*CCO)」という特別な道しるべを通る道を選びます。この道を通ると、酢酸にたどり着きます。一方、銅のナノ粒子は「HOCCOH」という別の道しるべを通る道を選びがちです。この道を通ると、エタノールやエチレンという別の物質になってしまいます。
これは、まるで山道を歩くとき、「絶景ポイント」と「温泉」への分かれ道があるようなものです。銅の原子集合体は絶景ポイント(酢酸)への道を選び、銅のナノ粒子は温泉(エタノール・エチレン)への道を選ぶのです。
科学者たちは、この道の選び方の秘密を理論計算でも確かめました。銅の原子集合体では、酢酸への道が「下り坂」のように進みやすいのに対し、銅のナノ粒子では、エタノール・エチレンへの道が「下り坂」になっていることがわかりました。
図4の説明: 上の部分(a, b)は、特殊なカメラ(ATR-SEIRAS)で魔法の過程を観察した結果です。銅の原子集合体では「ケテン(*CCO)」という道しるべが見えますが、銅のナノ粒子では別の道しるべが目立ちます。中央の部分(c, d)は、反応の速さを調べた結果です。下の部分(e-h)は、理論計算で反応の道筋のエネルギーを計算した結果です。銅の原子集合体では酢酸への道が進みやすく、銅のナノ粒子ではエタノール・エチレンへの道が進みやすいことが確認できました。
この魔法は地球とお財布にやさしい!
最後に、科学者たちはこの方法で酢酸を作るとコストはいくらかかるか計算しました。現在、酢酸は主に石油から作られていて、1トンあたり約1,200ドル(約18万円)で売られています。
計算の結果、銅の原子集合体を使った電気化学的な方法でも、同じくらいのコストで酢酸を作れることがわかりました。しかも、この方法は二酸化炭素を使うので、地球温暖化の原因となる気体を減らすことにもつながります!
さらに、将来は自然エネルギー(太陽光や風力)からの電気がもっと安くなれば、この方法はもっとお得になるでしょう。電気代が少し下がるだけで、石油からの製造よりずっと安く酢酸を作れるようになります。
図5の説明: この絵は、銅の原子集合体を使った酢酸生産のコスト計算結果です。左の部分(a)では、この方法で作る酢酸のコスト(約1,200ドル/トン)が、現在の市場価格と同等であることがわかります。真ん中の部分(b)は、全体のコストの内訳を示しています。電気代がコストの約半分を占めています。右の部分(c)は、電気代が変わるとどれだけ儲かるかの予測です。電気代が0.04ドル/kWh以下になると、より大きな利益が出せることがわかります。
まとめ:この研究でわかったこと
- 銅の原子集合体は、CO₂から酢酸を作るのに最適な「魔法使いチーム」です。
- 銅の原子が絶妙な距離(約3.0Å)で並ぶと、酢酸への魔法が上手く使えます。
- 窒素が銅の原子をしっかり支えて、理想的な配置を維持します。
- 銅の原子集合体は、COの70.2%を酢酸に変えられる素晴らしい性能を示しました。
- この方法は長時間(140時間以上)安定して使え、実用的です。
- 銅の原子集合体はケテン(*CCO)という特別な道しるべを通って酢酸を作ります。
- この技術は環境にやさしく、経済的にも有望です。
原論文の引用情報
Zhang, L., Feng, J., Wang, R., Wu, L., Song, X., Jin, X., Tan, X., Jia, S., Ma, X., Jing, L., Zhu, Q., Kang, X., Zhang, J., Sun, X., & Han, B. (2024). Switching CO-to-Acetate Electroreduction on Cu Atomic Ensembles. Journal of the American Chemical Society, Published online December 17, 2024. https://doi.org/10.1021/jacs.4c13197