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電池のパワーアップ!分子の並び方を変えるマジック

みなさんは、お友だちと教室の席替えをしたことがありますか?席替えをすると、クラスの雰囲気が変わりますよね。実は、目に見えない小さな分子の世界でも、「席替え」が大きな変化を起こすんです!今日は、科学者たちが分子の「席替え」で電池をパワーアップさせた素敵な研究についてお話しします。

電池の中のチームワーク

電池は私たちの生活に欠かせないものですね。おもちゃやゲーム機、家のライトなど、たくさんのものが電池のおかげで動いています。でも、普通の電池はすぐに使い切ってしまいます。

科学者たちは、もっと長く使える特別な電池「フロー電池」を研究しています。フロー電池は、普通の電池とちょっと違います。水族館の水が循環するように、タンクの中の特別な液体が流れながら電気を作り出すんです。この特別な液体には、電気を運ぶ働きをする分子がたくさん入っています。

でも、この分子たちには大きな問題がありました。電気を運ぶ仕事をしているうちに、疲れて壊れてしまうのです。まるで、ずっと重い荷物を運んでいるうちに、くたくたになってしまう配達員さんみたいですね。

分子の席替えで大変身!

科学者たちは考えました。「分子が壊れないようにするにはどうしたらいいだろう?」

そこで思いついたのが、分子の中の部品の席替えです!分子は、いくつもの小さな部品がつながってできています。その部品の並び方を変えれば、分子の性質が変わるかもしれない...。

実験に使ったのは、インドールという部品を持つ分子です。インドールが3つつながった「トリインドール」と、4つつながった「テトラインドール」という2種類の分子を作りました。

まず、トリインドールで実験をしました。インドールの向きをすべて同じにした分子(SCT)と、1つだけ向きを変えた分子(ACT)を比べてみました。すると驚くべきことが起こりました!

図1:分子の席替えによる安定性の向上

図1の説明: この絵は分子の「席替え」の様子を表しています。左側は古典的な方法で、分子に電子を増やしたり(電子ドナー)、大きな部品をつけたりして守る方法です。右側が今回の新しい方法で、部品の並び方を変えることで分子を強くします。

実験結果:席替えは大成功!

実験の結果、向きをすべて同じにしたSCTは、電気を運ぶ仕事をするとすぐに壊れてしまいました。一方、1つだけ向きを変えたACTは、100回も仕事を繰り返しても、ほとんど壊れませんでした!

これは、教室の席替えで、おしゃべりが好きな子どもたちを離して座らせると、クラス全体が落ち着くのと似ています。分子の中の電子(電気の素)の動きが変わり、分子全体が安定したのです。

図2:分子の安定性の比較実験

図2の説明: この図はSCTとACTの安定性を比べた実験結果です。グラフを見ると、ACT(青い線)は100回の充放電サイクル後もほとんど性能が落ちていないのに対し、SCT(赤い線)は最初のサイクルですぐに壊れてしまっています。これは分子の「席替え」がうまくいった証拠です。

分子の中で何が起きている?

科学者たちは、なぜACTがこんなに丈夫になったのか調べるために、コンピューターシミュレーションを使いました。分子の中の電子が、どこにどれくらいいるのかを計算したのです。

するとわかったことがあります。ACTでは、窒素原子(インドールの中の特別な部品)の周りに電子が集まりやすくなっていました。これは、チームスポーツで上手な選手の周りにボールが集まるように、電子が安定する場所に集まったということです。

また、ACTでは電子が分子全体に広がりやすくなり、一か所に集中しないようになっていました。これは、重い荷物を一人で運ぶより、みんなで分担して運ぶ方が楽なのと同じです。

図3:分子内の電子の動き

図3の説明: この図は分子の中の電子の分布を表しています。左側のSCTと右側のACTを比べると、ACTでは窒素原子(青色で示された部分)の周りに電子がより集まっていることがわかります。これが分子を安定させる秘密です。

もっとパワーアップ!4つの部品を持つ分子

次に科学者たちは、インドールが4つつながった「テトラインドール」でも同じ実験をしました。インドールの向きをすべて同じにした分子(sCOT)と、1つだけ向きを変えた分子(aCOT)を比べてみました。

すると、sCOTもaCOTも、トリインドールよりずっと長く仕事を続けられることがわかりました。特にaCOTは、100回の充放電を繰り返しても、ほとんど性能が落ちませんでした。

これは、テトラインドールが特別な形をしているからです。トリインドールが平らなお皿のような形なのに対し、テトラインドールはお椀のような形をしています。このお椀型の形が、電子を守るシールドのような役割をしているのです。

図4:テトラインドールの安定性実験

図4の説明: この図はsCOTとaCOTの安定性を比べた実験結果です。どちらも長く使えますが、特にaCOT(緑の線)は100回の充放電サイクル後も95%もの性能を保っています。これは分子の「席替え」と「お椀型の形」の両方が効果を発揮した結果です。

究極の電池を作る

最後に科学者たちは、一番安定だったaCOTを改良して、実際のフロー電池を作りました。この電池は400回も充放電を繰り返しても、ほとんど性能が落ちませんでした。これは、8日間も連続で使えるということです!

これは、今までに作られた同じ種類の電池の中で最も安定した記録です。まるで、疲れ知らずのスーパーアスリートのような電池ができたのです。

図5:実際のフロー電池の性能

図5の説明: この図は実際に作ったフロー電池の性能を示しています。400回(約8日間)の充放電を繰り返しても、98%もの性能を保っています。グラフの線がほとんど平らなのは、電池の性能がほとんど落ちていないことを表しています。

この研究はなぜすごいの?

この研究がすごいのは、分子の席替えというシンプルなアイデアで、電池の性能を大幅に向上させたことです。今までの方法では、分子に新しい部品を追加したり、大きな部品で守ったりするのが一般的でした。でも今回は、すでにある部品の並び方を変えるだけで大きな効果が得られたのです。

これは、新しい家具を買わなくても、部屋の模様替えをするだけで快適な空間ができるようなものです。シンプルだけど効果的な方法が見つかったことで、より安くて長持ちする電池が作れるようになるかもしれません。

まとめ:この研究でわかったこと

  1. 分子の中の部品の席替え(向きを変えること)で、電池の性能が大幅に向上した。
  2. 窒素原子の周りに電子が集まりやすくなり、分子が安定した。
  3. お椀型の形をした分子は、平らな分子よりも安定している。
  4. 分子の席替えお椀型の形の両方を活かした電池は、8日間も連続で使える。
  5. この方法は、新しい部品を追加する必要がなく、シンプルで効果的
  6. 今回の発見は、ほかの種類の分子や材料にも応用できる可能性がある。

原論文の引用情報

Chung, H. T. K., Schramm, T. K., Head-Gordon, M., Shee, J., & Toste, F. D. (2025). Regioisomeric Engineering for Multicharge and Spin Stabilization in Two-Electron Organic Catholytes. Journal of the American Chemical Society, Published online January 2, 2025. https://doi.org/10.1021/jacs.4c16027

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