小さなモーターが大活躍!分子のねじれでゲルが縮む不思議
みなさんは、コマやヨーヨーで遊んだことがありますか?コマは回転することで立っていられますよね。実は、私たちの体の中にも、とても小さな「回転するモーター」があるんです!これを分子モーターといいます。この分子モーターは、私たちの筋肉を動かしたり、細胞の中で荷物を運んだりする大切な仕事をしています。
科学者たちは、この自然の分子モーターをまねて、人工分子モーターを作りました。今回の研究では、この小さなモーターを使って、ゼリーのようなゲルを縮ませることに成功したのです!
分子モーターって何だろう?
分子モーターは、とても小さな「回る機械」です。小さすぎて目では見えませんが、私たちの体の中では大活躍しています。例えば、ミオシンという分子モーターは、私たちの筋肉を動かす力を生み出します。
今回科学者たちが作った人工分子モーターは、化学反応のエネルギーを使って回転します。これは、おもちゃの電車が電池のエネルギーで動くのと似ています。でも、電池ではなく、カルボジイミドという化学物質を「燃料」として使うのです。
このモーターは、真ん中の回転子(ローター)と、それを支える固定子(ステーター)からできています。燃料を入れると、回転子がくるくると回り始めます!
分子モーターをゲルに組み込む
科学者たちは、この小さなモーターをポリエチレングリコール(PEG)という長い高分子の鎖につなぎました。これは、たくさんのビーズを糸でつないだネックレスに、ところどころコマ(モーター)をつけたようなものです。
この高分子の鎖がたくさん集まって絡まると、水を含んだゼリーのようなゲルができます。ゲルの中では、モーターは高分子の鎖の交差点(結び目)にあります。このゲルを「gel-1」と名付けました。
モーターが回ると、ゲルが縮む!
さあ、ここからが面白いところです!gel-1に燃料と促進剤を加えると、モーターがくるくる回り始めます。このとき、モーターの回転の方向は燃料の種類によって決まります。
モーターが回ると、どうなるでしょう?高分子の鎖がねじれてぐるぐる巻きになります!これは、長いなわとびの縄をずっと同じ方向に回していると、だんだんねじれてくるのと同じです。
高分子の鎖がねじれてぐるぐる巻きになると、ゲル全体が縮んできます。7日間かけて、ゲルの体積は元の約70%まで小さくなりました!
図1の説明: この図はモーターの構造と、モーターを組み込んだゲルの実験方法を示しています。(a)はモーター1の化学構造と、それをゲルに組み込む方法です。(b)は化学エネルギーがどのように変換されるかを示しています。(c)はモーターが回転するとポリマー鎖がねじれてゲルが縮む様子を表しています。(d)はモーターの回転メカニズムです。
反対方向に回すと、ゲルがまた膨らむ!
もっと面白いことに、科学者たちは縮んだゲルを元に戻すことにも成功しました!どうやったと思いますか?
答えは、反対向きに回る燃料を加えることです。これは、ねじれた縄を反対方向に回してほどくのと同じです。
縮んだゲルに反対向きに回る燃料を加えると、最初はゲルが膨らみ始めました。これは、高分子の鎖のねじれがほどけていくからです。でも、モーターはずっと回り続けるので、今度は反対方向にねじれていきます。そのため、しばらくするとゲルは再び縮み始めました!
図4の説明: この図は燃料を変えてモーターを反対方向に回したときの実験結果です。(a)は実験の概要、(b)はゲルの写真、(c)はゲルの体積変化を示しています。青い点は最初の収縮、赤い点は反対方向の燃料を加えた後の変化です。右側のAFM画像はゲルの表面の変化を示しています。
顕微鏡で見るとどうなっている?
科学者たちは原子間力顕微鏡(AFM)という特別な顕微鏡を使って、ゲルの表面を観察しました。すると、縮んだゲルには小さな穴がたくさんできていることがわかりました!
これは、高分子の鎖がねじれて集まってきたので、一部の場所に何もない空間ができたからです。これは、長いロープをぐるぐる巻くと、途中でロープが寄って空間ができるのと似ています。
また、ゲルの弾力性を測ると、縮んだゲルは元のゲルよりも4.7倍も硬くなっていました。これは、高分子の鎖が絡まって、より強く結びついたからです。
図3の説明: この図はゲルの性質変化を示しています。(a)はゲルの弾力性(貯蔵弾性率G'と損失弾性率G'')の変化です。(b)はAFM画像で、左から順に元のゲル、縮んだゲル、再び膨らんだゲルの表面を示しています。縮んだゲルには小さな穴がたくさん見えています。
このモーターの研究はなぜすごいの?
この研究がすごいのは、とても小さなモーターを使って、目に見えるほど大きなものを動かしたことです!分子モーターは17個の原子からできているだけなのに、ゲル全体を縮ませることができました。
また、このモーターは私たちの体の中のモータータンパク質と同じ原理で動いています。モータータンパク質は複雑な構造をしていますが、今回の人工モーターはとてもシンプルです。それでも同じように化学エネルギーを力学的エネルギーに変換できるのです!
この研究は、将来のナノテクノロジーや人工筋肉の開発につながるかもしれません。例えば、薬を運ぶ小さなロボットや、筋肉のように動く新しい材料などを作れるかもしれないのです。
まとめ:この研究でわかったこと
- 人工分子モーターは化学反応のエネルギーを使って回転します。
- モーターをポリマーゲルに組み込むと、モーターの回転でゲルが縮みます。
- モーターの回転は高分子の鎖をねじれさせ、ゲルの体積が約70%まで小さくなりました。
- 反対方向に回る燃料を加えると、ゲルが膨らんでから再び縮みます。
- 縮んだゲルは元のゲルより4.7倍も硬くなり、表面には小さな穴ができました。
- この研究は将来、ナノテクノロジーや人工筋肉の開発につながるかもしれません。
原論文の引用情報
Wang, P.-L., Borsley, S., Power, M. J., Cavasso, A., Giuseppone, N., & Leigh, D. A. (2025). Transducing chemical energy through catalysis by an artificial molecular motor. Nature, 637, 594–600. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08288-x