コンピュータとロボットが協力!小さな世界のブロック遊び
みなさんはレゴブロックで遊んだことがありますか?小さなブロックを組み合わせて、家や車、ロボットなどを作るのは楽しいですよね。でも、もし目に見えないくらい小さなブロックがあったらどうでしょう?そんな小さなブロックを手で触ることはできません。科学者たちは、そんな「見えない小さなブロック」(分子)を使って、新しいものを作る研究をしています!
この研究では、科学者たちが「賢いコンピュータ」と「特別な顕微鏡」を組み合わせて、目に見えないほど小さな世界で「ブロック遊び」(化学反応)をさせることに成功しました。まるでロボットがレゴで遊んでいるような研究なんです!
特別な「指」で小さな世界を触る!
私たちの指は、とても小さなものでも触ることができますが、原子や分子のような小さなものは触れません。科学者たちは、STM(エスティーエム)と呼ばれる特別な顕微鏡を使います。これは「走査型トンネル顕微鏡」という長い名前の略です。
このSTMは、とても細い針の先を使って、目に見えない分子を「触る」ことができます。まるで魔法の指のように、小さな世界のブロックを動かしたり、くっついているブロックを外したりできるんです!
でも、問題があります。この「魔法の指」を動かすには、どれくらいの強さで、どの位置を押せば良いのかを知らないといけません。これまでは科学者がたくさん試して、うまくいく方法を見つけていました。でも、それはとても時間がかかるし、疲れる作業です。
賢いコンピュータが「魔法の指」を動かす!
そこで科学者たちは、「深層学習」という賢いコンピュータの技術を使って、STMを自動で動かす方法を開発しました!これは、ちょうどゲームのコントローラーを使ってロボットを動かすようなものです。
彼らは「AutoOSS(オートオーエスエス)」というシステムを作りました。これは「自動化された表面合成」という意味です。このシステムには3つの大切な役割があります:
- お目当てのブロックを見つける係(Target detection):顕微鏡の画像から、実験したい分子を見つけます。
- 結果を判断する係(Interpretation):「魔法の指」が分子に何をしたか、うまくいったかどうかを判断します。
- 指示を出す係(Decision-making):「魔法の指」をどう動かしたら良いか決めます。
どんな実験をしたの?
科学者たちは、「ZnBr2Me4DPP(ジンクブロメチルディーピーピー)」という複雑な分子を使いました。この分子は、ポルフィリンという色素の仲間で、真ん中に亜鉛(Zn)があり、端っこに臭素(Br)がついています。
この実験の目標は、臭素と炭素の間の結合(C-Br結合)を切ることでした。これは、レゴブロックの特定の場所だけを外すようなものです。とても難しい作業ですが、「AutoOSS」はこれを自動でできるのです!
図1の説明: この絵は「AutoOSS」の3つの部分を示しています。左の「お目当てのブロックを見つける係」は、大きな画像から目標の分子を見つけます。真ん中の「結果を判断する係」は、実験の結果を理解します。右の「指示を出す係」は、顕微鏡の針をどう動かすかを決めます。
分子を見つけるのは「かくれんぼ」のよう!
科学者たちは、まず「分子かくれんぼ」をする必要がありました。多くの分子の中から、実験に使いたい「ZnBr2Me4DPP」分子を見つけなければならないからです。
顕微鏡の画像を見ると、分子は小さな明るい点や形として見えます。でも、どれが目的の分子かを判断するのは難しいです。そこで、ニューラルネットワークという賢いコンピュータの技術を使いました。1350枚の画像を使って、コンピュータに「これが目的の分子だよ」と教えたのです。
すると、コンピュータは98.5%の正確さで目的の分子を見分けられるようになりました!まるでかくれんぼの天才選手のようです。
図2の説明: この絵は分子を見つける方法を示しています。上の部分(a)では、大きな画像から個々の分子を見つけています。青い点が見つかった分子です。中央部分(b)は、ニューラルネットワークの仕組みです。下の部分(c-e)は、分子がいろいろな角度で見えることや、実際の3D構造を示しています。
分子の変化を理解する「先生」
「魔法の指」(STMの針)が分子に何かをすると、分子は変化します。臭素が外れるかもしれないし、分子が動くだけかもしれません。時には、予想外の変化が起こることもあります。
科学者たちは、これらの変化を3つのカテゴリーに分けました:
- 成功(Suc):臭素が外れた
- 変化なし(Int):分子はそのまま
- 不明(Ind):何か変化したけど、よくわからない
5000以上のケースを分析して、コンピュータに「これは成功だよ」「これは変化なしだよ」と教えました。すると、コンピュータは97%以上の正確さで結果を判断できるようになりました!
図3の説明: この絵は実験の結果の種類を示しています。左の列は実験前、右の列は実験後の分子です。赤い点は「魔法の指」が触れた場所です。中央の列は、実験中の変化を示しています。
魔法の指を動かす「コーチ」になる
科学者たちは最初、「魔法の指」をランダム(でたらめ)に動かしてみました。573回の実験の結果、34%だけ成功しました。でも、もっと効率良くできるはずです。
そこで、「深層強化学習(DRL)」というスゴイ方法を使いました。これは、コンピュータゲームのAIを作るときにも使われる技術です。コンピュータに「成功したらご褒美、失敗したら減点」というルールを教えると、どんどん上手になっていきます。
328回の実験の後、コンピュータは成功率を62%にまで上げました!さらに、特に良い設定(高い電圧と低い電流)を見つけて実験すると、成功率は80%にまで上がりました!
図4の説明: この絵はランダムな実験の結果です。左上(a)は、使った電圧と電流の分布を示しています。右上(b)は、「魔法の指」を置いた場所の分布です。下(c)は、各分子に何回試したかを示しています。赤い点は成功した実験です。
図5の説明: この絵は「深層強化学習」を使った結果です。左上(a)は、「魔法の指」をどこに置くかの戦略と、コンピュータの仕組みを示しています。右上(b)は実験の軌跡で、赤い点が成功、灰色の点が失敗です。中央(d)は、学習するにつれて実験の成功率が上がることを示しています。下部(e-g)は、電圧と電流の最適な組み合わせが見つかっていく様子を示しています。
この研究はなぜスゴイの?
この研究が素晴らしいのは、コンピュータが自分で学んで、難しい科学実験を自動でできるようになったことです!人間の科学者が何時間もかけてやっていた作業を、コンピュータがより速く、より正確にできるようになりました。
将来、このシステムを使えば、もっと複雑な分子も作れるようになるかもしれません。それは新しい薬や材料の開発につながります。例えば、病気を治す新しい薬や、より強い材料、より効率の良い太陽電池など、私たちの生活を良くするものがたくさん作れるかもしれないのです!
まとめ:この研究でわかったこと
- 賢いコンピュータと特別な顕微鏡を組み合わせると、目に見えないほど小さな分子を操作できます。
- AutoOSSというシステムは、分子を見つけ、変化を判断し、顕微鏡を動かす3つの部分からできています。
- ニューラルネットワークを使うと、たくさんの分子の中から目的の分子を高い精度で見つけられます。
- 深層強化学習を使うと、コンピュータは自分で実験方法を改良していき、成功率を80%まで高められました。
- この技術を使えば、将来はもっと複雑な分子を自動で作れるようになり、新しい薬や材料の開発が速くなるでしょう。
原論文の引用情報
Wu, N., Aapro, M., Jestilä, J.S., Drost, R., García, M.M., Torres, T., Xiang, F., Cao, N., He, Z., Bottari, G., Liljeroth, P., & Foster, A.S. (2024). Precise Large-Scale Chemical Transformations on Surfaces: Deep Learning Meets Scanning Probe Microscopy with Interpretability. Journal of the American Chemical Society, Published online December 16, 2024. https://doi.org/10.1021/jacs.4c14757