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おじいちゃん・おばあちゃんの脳の汚れを電気の力で掃除しよう

みなさんは、靴底にガムがくっついて取れなくなったことはありますか?とっても困りますよね。実は、おじいちゃん・おばあちゃんの脳の中にも、似たような「ねばねばガム」がくっついてしまうことがあるんです!

この「ねばねばガム」は科学者たちが「老人斑(ろうじんはん)」と呼んでいるもので、アルツハイマー病というお年寄りの記憶力が弱くなる病気の原因になっています。科学者たちは、この「ねばねばガム」を電気の力できれいに取り除く方法を研究しています。

電気の力で「ねばねばガム」を取り除こう!

靴底のガムを取るとき、どうしますか?こすったり、引っ張ったりしますよね。科学者たちも同じように考えました。でも、脳の中にはゴシゴシこすることはできません。そこで、電気の力を使うことを思いつきました!

科学者たちは2種類の電気の力を試しました:

  1. 「引っ張る電気」(静的電場) - 一方向に引っ張り続ける力
  2. 「シェイクする電気」(振動電場) - 行ったり来たりと素早く振動させる力

どちらが「ねばねばガム」を取るのに効果的でしょうか?それを調べるために、科学者たちはコンピューターを使って実験をしました。

図1:静的電場と振動電場の比較

図1の説明: これは、コンピューターで行った実験の様子です。上の図(a)では、10個のペプチド(タンパク質の小さな部品)がくっついて「ねばねばガム」(プラーク)を作っています。下の図(b)は「シェイクする電気」を使うと、わずか50ナノ秒(1秒の10億分の1)でペプチドがバラバラに飛び散る様子を示しています。ペプチド同士の距離(矢印)が大きく離れているのがわかります。

「シェイクする電気」VS「引っ張る電気」:どっちが強い?

実験の結果、「シェイクする電気」のほうが「ねばねばガム」を取り除くのに圧倒的に効果的だとわかりました!「シェイクする電気」を使うと、「ねばねばガム」はまるでポップコーンが弾けるように、あっという間に飛び散ってバラバラになりました。科学者たちはこれを「プラーク爆発」と名付けました。

一方、「引っ張る電気」を使うと、「ねばねばガム」はとてもゆっくりとしか分解せず、電気を止めるとすぐにまたくっついてしまいました。これは、靴底のガムを少しだけ引っ張っても、またすぐにくっついてしまうのと同じです。

図7:静的電場による遅い分解の様子

図7の説明: この図は「引っ張る電気」を使ったときの様子です。左から右へ時間が進みます(a:0秒、b:50秒、c:500秒、d:1000秒、e:1200秒)。「引っ張る電気」では1200ナノ秒(1.2マイクロ秒)もかかって、やっとペプチドが少し離れます。でも、その距離は「シェイクする電気」に比べて短く、すぐにくっつきやすい状態です。

なぜ「シェイクする電気」は「ねばねばガム」を飛び散らせるの?

なぜ「シェイクする電気」は「ねばねばガム」を取り除くのに効果的なのでしょうか?それは、振動するパワーにあります!

想像してみてください。ガムで手がベタベタになったとき、ジッとしていてもガムは取れません。でも、手を激しく振り回すと、ガムが飛び散りますよね。それと同じように、「シェイクする電気」は「ねばねばガム」を左右に素早く揺さぶるので、バラバラに飛び散るのです。

科学者たちの説明では、「シェイクする電気」の特徴は:

  1. 方向が常に変わる - 行ったり来たりと振動する
  2. 強さが常に変わる - 強くなったり弱くなったりする

この2つの特徴によって、「ねばねばガム」はバランスを保てなくなり、バラバラに飛び散ります。これが「プラーク爆発」の正体です!

図4:振動電場によるプラーク爆発のメカニズム

図4の説明: この図は「シェイクする電気」が「ねばねばガム」を分解する様子を示しています。(a)20ナノ秒後、(b)40ナノ秒後の様子です。プラスとマイナスの記号は、ペプチドの電気を帯びた部分を示しています。「シェイクする電気」によって、ペプチドはバラバラになり、電気の方向に合わせて並び始めますが、すぐに飛び散ります。

どのくらいの「シェイク」がちょうどいい?

おもしろいことに、「シェイクする電気」でも、シェイクのスピードが重要だとわかりました!

例えるなら、ミルクセーキを作るとき、ちょうどいいスピードで振らないとうまくいきませんよね。早すぎても遅すぎてもダメなのです。

科学者たちは、3つの異なるスピード(周波数)で実験しました:

  1. 低速(20 MHz = 1秒間に2000万回振動)
  2. 中速(0.1 GHz = 1秒間に1億回振動)
  3. 超高速(1-10 THz = 1秒間に1-10兆回振動)

結果はどうだったでしょう?低速と中速は効果的でしたが、超高速はほとんど効果がありませんでした!これは、超高速だと「ねばねばガム」が反応する前に電気の向きが変わってしまうからです。早すぎて「ねばねばガム」が追いつけないのです!

図3:異なる周波数での効果の比較

図3の説明: この図は、超高速の「シェイクする電気」(1テラヘルツ)を使った実験結果です。(a)50ナノ秒後、(b)100ナノ秒後も「ねばねばガム」はほとんど分解されていません。(c)ペプチド間の距離もほとんど変わらず、(d)全体の大きさも小さいままです。これは、超高速では「ねばねばガム」分解の効果が低いことを示しています。

本物の「ねばねばガム」でも実験してみよう!

ここまでの実験は、小さな「ねばねばガム」のモデルを使っていました。でも、本物の「ねばねばガム」(完全長のAβ-42ペプチド)でも同じ効果があるのか確かめる必要があります。

そこで科学者たちは、本物の「ねばねばガム」を使って実験しました。その結果、やはり「シェイクする電気」のほうが効果的だとわかりました!これは、小さいモデルだけでなく、本物の「ねばねばガム」でも電気の力で分解できる可能性を示しています。

図9:本物のAβ-42ペプチドでの実験結果

図9の説明: この図は、本物の「ねばねばガム」(Aβ-42ペプチド)3個が集まった状態での実験結果です。(a)電気なし、(b)低速の「シェイクする電気」(20 MHz)、(c)超高速の「シェイクする電気」(1 THz)、(d)「引っ張る電気」の結果を比較しています。低速の「シェイクする電気」だけが効果的に分解しているのがわかります。

この研究はなぜスゴイの?

この研究は、アルツハイマー病の新しい治療法につながるかもしれない、とてもスゴイ発見です!

現在、「ねばねばガム」を取り除く効果的な方法はありません。でも、この研究により、「シェイクする電気」を使えば「ねばねばガム」を分解できる可能性が示されました。

さらにおもしろいのは、似たような電気治療法がすでに癌(がん)の治療に使われていることです。「TTFields(腫瘍治療電場)」と呼ばれるこの治療法は、「シェイクする電気」で癌細胞の増殖を止めます。同じ原理でアルツハイマー病も治療できるかもしれないのです!

図12:異なる電場強度での効果予測

図12の説明: この図は、弱い電気を使った場合の効果を予測したものです。医療で安全に使える弱い電気でも、時間をかければ「ねばねばガム」を分解できることを示しています。これは実際の治療法に応用できる可能性を示す重要な発見です。

まとめ:この研究でわかったこと

  1. 脳の中の「ねばねばガム」(老人斑)はアルツハイマー病の原因になります。
  2. 「シェイクする電気」(振動電場)「引っ張る電気」(静的電場)よりも効果的に「ねばねばガム」を分解します。
  3. 「シェイクする電気」がもたらす「プラーク爆発」によって、「ねばねばガム」はバラバラに飛び散ります。
  4. ちょうどいいスピード(MHz-GHz)の「シェイク」が最も効果的です。
  5. 短い時間のパルスで「シェイクする電気」を使うのが最適です。
  6. この研究は、アルツハイマー病の新しい治療法につながる可能性があります。

この研究をヒントに、将来、おじいちゃん・おばあちゃんの脳の中の「ねばねばガム」を電気の力できれいに掃除する治療法が開発されるかもしれません。そうすれば、アルツハイマー病の進行を遅らせたり、予防したりできるようになるでしょう。

原論文の引用情報

Kalita, S., Danovich, D., & Shaik, S. (2025). Origins of the Superiority of Oscillating Electric Fields for Disrupting Senile Plaques: Insights from the 7-Residue Fragment and the Full-length Aβ-42 Peptide. Journal of the American Chemical Society, Published online January 8, 2025. https://doi.org/10.1021/jacs.4c14791

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