AIがお天気博士に!未来の天気を予想する新しい方法
みなさんは朝起きて「今日は雨かな?傘を持っていくべきかな?」と考えたことがありませんか?大人たちはスマホで天気予報をチェックしますね。でも、天気予報ってどうやって作られるのか考えたことはありますか?
実は天気予報を作るのはとっても大変なお仕事なんです。地球の天気は巨大なパズルのようなもので、世界中のあらゆる場所で「今どんな天気か」を知って、それをもとに「これからどんな天気になるか」を予想しなければなりません。このパズルを解く方法がいま大きく変わろうとしているんです!
天気予報はなぜ難しいの?
天気予報を作るのは、とても難しいパズルを解くようなものです。みなさんは「神経衰弱」というカードゲームをしたことがありますか?カードをめくって同じ絵柄を見つけるゲームですね。でも、もしカードの絵が少しずつ変わってしまうとしたら?そう、とても難しくなりますよね。天気もそれと同じで、どんどん変わっていくものなんです。
科学者たちは長い間、数値予報(すうちよほう)という方法で天気予報を作ってきました。これは、大きなコンピュータを使って空気がどう動くか計算する方法です。でも、完璧な予報を作るのはとても難しいのです。なぜなら:
- 地球の天気を完全に知ることはできません(観測所がない場所もたくさんあります)
- 小さな誤差が時間とともに大きくなっていきます(チョウが羽ばたくだけでも影響するかも!)
- 計算がとても複雑で、スーパーコンピュータでも時間がかかります
そこで科学者たちは、1つの予報ではなくたくさんの可能性を考える「アンサンブル予報」という方法を使うようになりました。これは、同じお弁当を作るとき、「これが一番おいしくなるはず!」と1つだけ作るのではなく、味や具材を少しずつ変えた何種類ものお弁当を作って、どれかがきっとおいしいはず!と考えるようなものです。
GenCast:AIの天気予報マスター登場!
この研究で科学者たちは、GenCast(ジェンキャスト)という新しい天気予報システムを開発しました。GenCastは機械学習(AIの一種)を使って天気を予想します。
GenCastは、「天気の先生」からたくさんのお勉強をしたAIです。先生役をしたのは、過去40年間(1979年から2018年)の世界中の天気データです。GenCastはこのデータをじっくり学習して、天気がどのように変わっていくのかを理解しました。
ふつうのAIは「明日は晴れ」といった1つの答えを出しますが、GenCastはスゴイところが違います。GenCastはおもしろい想像力を持っていて、これから起こりうる様々な天気の可能性を考えることができるのです!まるで、「明日は80%の確率で晴れるけど、20%の確率で小雨が降るかも」というように、いろんな可能性を教えてくれます。
図1の説明: この絵はGenCastが天気予報を作る方法を示しています。青い箱の部分を見てください。最初にX0とX-1という過去の天気データを入れると、GenCastが「魔法のお鍋」のように情報を混ぜ合わせて、次の時間の天気X1を予想します。そして、その予想した天気をまた入れて、次の時間の天気を予想する…というように繰り返して、15日先までの天気を予想していきます。このプロセスを何度も繰り返すことで、いろんな可能性の天気予報ができあがります。
GenCastは台風の進路も予想できる!
GenCastがどれだけスゴイか見てみましょう。2019年に日本を襲った台風19号(ハギビス)を例に考えてみます。台風は大きな被害を出すことがあるので、その進路を正確に予想することはとても大切です。
GenCastは台風の進路を予想するとき、いくつもの可能性を考えます。これは、鬼ごっこで鬼が「あの子はどっちに走るかな?」と考えるときに、いろんな可能性を想像するようなものです。
台風が来る1週間前だと、GenCastは「こっちに行くかも、あっちに行くかも」と様々な可能性を示します。でも、台風が近づくにつれ、「ほぼこの方向に進むはず」とより確かな予想ができるようになります。これは、遠くにいる友達を見るときとよく似ています。最初は「あれは太郎くんかな?次郎くんかな?」とはっきりわかりませんが、近づくにつれて「あ、やっぱり太郎くんだ!」とわかるようになりますね。
図2の説明: この絵の上の部分(a-m)では、GenCastが作る天気予報がどれだけ本物の天気(ERA5と書かれている)に似ているかがわかります。GenCastの予報は「写真みたいに鮮明」で、本物の天気によく似ています。下の部分(n-q)では、台風ハギビスの進路予測を示しています。赤い線が実際の台風の進路で、青い線がGenCastの予測です。台風が来る7日前の予測はばらつきが大きいですが(n)、時間が近づくにつれて予測が集まってきて(o-q)、的中していることがわかります。
GenCastは従来の天気予報よりも正確!
科学者たちは、GenCastと世界で最も優れた従来の天気予報システム「ENS」を比較しました。ENSはヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)という機関が作っている天気予報です。
比較の結果、GenCastはENSよりも97.2%のケースでより正確だということがわかりました!これはすごいことです。例えると、100問のテストでGenCastが97問以上正解したのに対して、ENSはそれより少ない正解数だったということです。
特に、GenCastは次のような点で優れていました:
- 短期(3〜5日)の予報が非常に正確
- 極端な天気(猛暑や強風など)の予測が上手
- 台風の進路予測が約12時間分早く正確になる
- 風力発電に使える風の予測が20%も正確
図3の説明: この図のaの部分は、GenCastとENSの予報の正確さを比較した表です。濃い青い色の部分は、GenCastがENSより20%以上も正確なことを示しています。b-fの部分は、両方の予報がどれだけ信頼できるかを示しています。数値が1に近いほど信頼性が高いことを意味します。g-hの部分は、極端な高温や強風の予測について、GenCast(青線)がENS(黒線)より優れていることを示しています。
風力発電の予測もバッチリ!
GenCastは風の予測が特に得意です。これは風力発電を計画する人たちにとって、とってもうれしいニュースです!
風力発電は風車を使って電気を作りますが、風がどれくらい吹くかによって発電量が大きく変わります。風が弱すぎると電気があまり作れませんし、強すぎると風車を止めなければならないこともあります。だから正確な風の予報はとても大切なんです。
GenCastの風の予報は、ENSより約20%も正確です。これは、風力発電の計画を立てるのに大きな助けになります。たとえば、「明日は風が弱いから、他の発電所からもっと電気を作ってもらおう」といった判断が早くできるようになります。
図4の説明: aの部分は、風力発電の予測においてGenCastがENSよりどれだけ正確かを示しています。bの部分は、台風の進路予測の誤差を示していて、GenCast(青線)はENS(黒線)よりも誤差が小さいことがわかります。cの部分は、台風の進路予測の価値を示していて、GenCastの予測(青線)がENS(黒線)よりも役立つことを示しています。
GenCastはどうやって天気を予測するの?
GenCastは拡散モデルという特別なAIの仕組みを使っています。これはとても新しい技術で、最近の人工知能の大きな進歩に貢献しています。
拡散モデルがどう動くか、簡単に説明しましょう。まず、「ノイズ」(ざらざらした情報)から始めて、それを少しずつ整えていくイメージです。これは、粘土細工をするときに、最初はただのでこぼこした粘土から始めて、少しずつ形を整えていくのに似ています。
GenCastは次のような手順で予報を作ります:
- 現在と過去の天気データを入力する
- ノイズ(ランダムな情報)を加える
- 特別なニューラルネットワーク(AIの脳)を使ってノイズを整える
- このプロセスを何度も繰り返して、リアルな天気予報を作る
- 異なるノイズから始めることで、いくつもの可能性のある予報を作る
これは、お絵かきをするときに、最初はぐちゃぐちゃのスケッチから始めて、少しずつ線を整えていって、最後にはきれいな絵になる…というプロセスに似ています。GenCastは、40年分の天気データからこの「お絵かきの仕方」を学んだのです。
まとめ:この研究でわかったこと
- GenCastという新しいAIシステムは、従来の数値予報よりも正確に天気を予測できます。
- GenCastはたくさんの可能性を考えることができるので、「80%の確率で雨」といった予報ができます。
- GenCastは極端な天気(猛暑や強風など)の予測が特に得意です。
- 台風の進路予測では、GenCastは従来の方法より約12時間早く正確な予測ができます。
- 風力発電の予測では、GenCastは従来の方法より約20%正確です。
- GenCastは拡散モデルという新しいAI技術を使っています。これは粘土細工のように、少しずつ形を整えていく方法です。
- この研究は天気予報の新しい時代の始まりを示しており、より正確で速い予報が可能になります。
GenCastのような新しい技術によって、将来的には「傘を持っていくべきか」だけでなく、台風への備えや再生可能エネルギーの計画など、多くの大切な決断がより確かな情報に基づいてできるようになるでしょう。世界中の人々の生活をより安全で便利にするための、大きな一歩なのです!
原論文の引用情報
Price, I., Sanchez-Gonzalez, A., Alet, F., Andersson, T. R., El-Kadi, A., Masters, D., Ewalds, T., Stott, J., Mohamed, S., Battaglia, P., Lam, R., & Willson, M. (2025). Probabilistic weather forecasting with machine learning. Nature, 637, 84–90. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08252-9