魔法のバランスゲーム:温度を上げても壊れない不思議な対称性
みなさんは、氷が溶けて水になるのを見たことがありますか?温かくなると、カチカチの氷は液体の水に変わりますよね。これは状態変化と呼ばれる現象です。科学の世界では、多くのものが温度が上がると「整った状態」から「バラバラな状態」に変わります。でも今回、科学者たちは不思議な発見をしました。ある特別な条件では、温度を上げても「整った状態」がずっと続く魔法のような現象があるんです!まるで、夏の太陽の下でも溶けない不思議なアイスクリームのようなものです。
「対称性」ってなに?積み木タワーで考えてみよう
難しい言葉ですが、「対称性」を説明するために積み木タワーを想像してみましょう。積み木を左右対称にきれいに積み上げると、真ん中で鏡を立てたとき、両側が同じに見えますね。これが「対称性がある状態」です。
でも、誰かがそのタワーをちょっと押すと、積み木は片側に傾いて倒れてしまいます。もう左右対称じゃなくなりました。これが「対称性の破れ」です。自然界では、温度を下げると物質が「対称性の破れ」を起こして、ある特定の形や状態をとりやすくなるんです。
普通の世界では:熱いとバラバラ、冷たいとキチンと整う
普通、物質は冷やすと整った状態(対称性が破れた状態)になり、熱すると乱雑なバラバラの状態(対称性が回復した状態)になります。
例えば、磁石🧲を思い浮かべてください。磁石は、とても冷たい状態では小さな磁石の矢印(スピンと呼びます)がみんな同じ方向を向いています。これは「対称性が破れた状態」です。でも、磁石を熱すると、スピンはバラバラの方向を向き始め、最終的には完全にランダムになります。これが「対称性が回復した状態」です。
これは、雪だるまが暖かくなると溶けて水になるのと似ています。雪だるまという形(対称性が破れた状態)から、形のない水(対称性が回復した状態)に変わるんですね。
図1の説明: この図は、研究で使われた特別な物理モデルの「結合定数」と呼ばれる値を示しています。λφ、λχ、λφχという記号は、粒子同士がどれくらい強く相互作用するかを表しています。λφχが負の値(マイナス)になっているのが、この研究の重要なポイントなんですよ。
不思議な発見:熱くしても整ったまま!
科学者たちは、とても特殊な状況では、通常の法則とは反対の現象が起こることを発見しました。温度を上げても、物質が整った状態(対称性が破れた状態)を保ち続けるんです!
これは、どんなに太陽が照りつけても溶けない不思議なアイスクリームのようなものです。普通なら、暑くなれば溶けるはずなのに、この特別なアイスクリームは形をしっかり保っています。
科学者たちは、この現象を「持続的対称性の破れ」と呼びました。「持続的」というのは、「ずっと続く」という意味です。
どうしてそんなことが起こるの?チームプレイの秘密
この不思議な現象が起こる理由を説明するために、2つのダンスチームを想像してみましょう。1つ目のチームは大きなグループで、円形でダンスをしています(これをO(N)対称性と呼びます)。2つ目のチームは小さなグループで、左右に動くダンスをしています(これをZ₂対称性と呼びます)。
普通なら、ステージが熱くなると、ダンサーたちは汗をかいて疲れ、きれいな隊形を保てなくなります。でも、この研究では、大きなチームのダンサーが十分に多い場合(N>15人)、小さなチームのダンサーたちは、ステージがどんなに熱くなっても、整った隊形を保ち続けることができるんです!
これはなぜかというと、大きなチームと小さなチームの間に特別な協力関係(λφχ)があるからです。大きなチームのダンサーたちが、小さなチームのダンサーたちに「一緒に整った隊形を保とう!」と声をかけているようなものです。そして、大きなチームのダンサーが十分に多ければ、その応援の力が強くなって、小さなチームは熱くなってもバラバラにならずに済むんです。
図2の説明: この図は研究者たちが行った計算結果を示しています。(a)は「コールマン・ホーエンベルク・マーミン・ワグナー定理」(短くCHMW定理)と呼ばれる物理法則がしっかり守られていることを確認しています。この法則は、ある種の対称性(O(N)対称性)は2次元+1の世界では、温度が上がると必ず壊れることを示しています。(b)は温度を上げたときに、Z₂対称性が逆に「破れる」という不思議な現象を示しています。
科学者たちはどうやって研究したの?
科学者たちは、コンピューターを使って「繰り込み群」という特別な方法で計算しました。これは、大きな望遠鏡でだんだん焦点を合わせていくように、物理系の振る舞いを徐々に詳しく見ていく方法です。
彼らはN(大きなチームのダンサーの数)を変えながら計算を繰り返し、N=15以上のときに「持続的対称性の破れ」が起こることを発見しました。これは、大きなチームに15人以上のダンサーがいれば、小さなチームはずっと整った隊形を保てるということです。
図3の説明: これは「相図」と呼ばれるグラフで、システムがどのような状態になるかを示しています。横軸がκUVχという値、縦軸が温度Tを表しています。オレンジ色の点線より右側では、Z₂対称性が「破れた状態」(整った状態)になります。重要なのは、この線が左に曲がっていることで、これが「持続的対称性の破れ」が起きている証拠なんです。小さな図は、Nが15以上になると、この現象が起こることを示しています。
この研究はなぜスゴイの?
この研究は、理論物理学の世界で長い間議論されてきた問題に答えを出しました。それは、「局所的でかつユニタリーな場の理論」(難しい言葉ですが、物理理論の重要な条件です)において、持続的対称性の破れが可能かどうかという問題です。
これは、普通の物理法則だと不可能だと思われていたことが、実は特別な条件下では可能だということを証明したのです!また、CHMW定理という物理学の重要な法則とも矛盾しないことも確認されました。
この発見は、理論物理学の分野だけでなく、将来的には新しい材料の開発や宇宙の初期の状態を理解するのにも役立つかもしれません。たとえば、どんなに温度が上がっても特定の性質を保つ新しい材料を作るヒントになるかもしれないのです。
まとめ:この研究でわかったこと
- 通常、温度が上がると物質はバラバラになり対称性が回復します(雪だるまが溶けるように)。
- でも、特別な条件では、温度が上がっても整った状態(対称性が破れた状態)がずっと続くことがあります。
- この現象は、2つの粒子グループ(O(N)とZ₂)が特別な相互作用をするときに起こります。
- 大きなグループ(O(N))の粒子数が15以上のとき、小さなグループ(Z₂)は温度が上がっても整った状態を保ちます。
- この発見は、理論物理学の法則に矛盾せず、新しい物質の性質を理解するのに役立ちます。
原論文の引用情報
Hawashin, B., Rong, J., & Scherer, M. M. (2025). Ultraviolet-Complete Local Field Theory of Persistent Symmetry Breaking in Dimensions. Physical Review Letters, 134(4), 041602. Published January 28, 2025. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.041602