不思議な渦巻き磁石の冒険
みなさんは、こまを回したことがありますか?こまはクルクル回りながら、ときどき不思議な動きをしますよね。実は、とっても小さな世界、原子の世界の磁石にも、「スカーミオン」という名前の不思議な渦巻きがあるんです!これは、まるで目に見えない小さなこまが集まって踊っているようなもの。今日は、科学者たちが見つけた、この不思議な磁石の渦巻きのお話をしましょう。
渦巻き磁石「スカーミオン」って何?
みなさんが学校で見る普通の磁石は、N極とS極という二つの端があって、鉄などの金属をくっつける力があります。でも、とっても小さな世界では、磁石はもっと複雑な形になることがあるんです。
スカーミオンは、小さな磁石(科学者は「スピン」と呼びます)がみんなで協力して作る、渦巻き模様のこと。ちょうど台風の天気図や、お風呂の排水口の水の渦のような形をしています。このスカーミオンは、とても小さくて、髪の毛の太さの数千分の1ほどしかありません!
普通、このスカーミオンという渦巻きは、特別な「左右非対称」の材料の中でしか見つからないと思われていました。左右非対称というのは、鏡に映したときに違って見えるもののこと。例えば、みなさんの左手と右手は鏡に映すと違って見えますよね。それが「左右非対称」です。
でも、最近の研究で、「左右対称」(鏡に映しても同じに見える)材料の中でも、スカーミオンが見つかりました!今回の研究で使ったGd₂PdSi₃(ガドリニウム・パラジウム・シリコンの化合物)という材料もそのひとつです。これは、まるで左右対称の学校の校庭で、左右非対称のダンスができるようなもの。なぜこんなことができるのか、科学者たちは不思議に思っていました。
科学者たちの「見えない世界」を観察する方法
でも、どうやってこの小さな渦巻きを見るのでしょう?これらは普通の顕微鏡では見えないくらい小さいのです。
そこで科学者たちは、ミュオンというとても小さな粒子を使いました。ミュオンは目に見えない小さな探検家のようなもので、材料の中に入り込んで、そこにある磁石の様子を教えてくれるのです。
ちょうど、暗い洞窟に入るときに懐中電灯を持っていくように、科学者たちはミュオンを使って、材料の中の磁石の「踊り」を観察しました。この方法をミュオン分光法といいます。
磁石の踊りにも「方向」がある!
研究チームが発見したのは、Gd₂PdSi₃の中の小さな磁石たちが、温度や磁場によって違う「踊り」をすることです。
例えば、とても冷たい状態(IC-1相と呼ばれる)では、磁石たちは主に「横方向」(床と平行)に踊っていました。まるで、フラフープを回すように、みんなが横向きに動いているのです!
ところが、強い磁場をかけてちょっと温度を上げると(SL相=スカーミオン格子相)、今度は逆に「縦方向」(床と垂直)の踊りが強くなりました。これは、まるでみんなでジャンプしているようなダンスです!
そして、もっと温度を上げると(IC-2相)、今度はどの方向にも均等に踊るようになりました。これは、みんなが好きな方向に自由に踊るパーティーのような状態です。
図1の説明: 上の図(a)は、温度と磁場によって材料がどの状態になるかを示しています。緑の線は科学者たちが測定した場所です。下の図(b)は実験の配置を示しています。ミュオン(探検家)は試料に入り、その動きから磁石の様子を教えてくれます。
冷たい状態では渦と反渦のダンスパーティー?
材料がもっとも冷たい状態(IC-1相)では、科学者たちは興味深い発見をしました。磁石たちは、単純な一方向の波ではなく、複雑な模様を作っていたのです!
以前の研究から、この状態では磁石たちが三つの違う方向に並ぶパターンを持っていると考えられていました。今回の発見は、それがメロンとアンチメロンと呼ばれる構造(スカーミオンの半分のようなもの)のダンスパーティーであることを示唆しています。
これは、運動会で組体操をしているようなもの。一人ひとりは単純な動きでも、みんなで協力すると複雑な形が浮かび上がるのです!
図2の説明: この図は冷たい状態(IC-1相)での磁石の動きを示しています。(a)はミュオンが感じた信号、(b)と(c)は磁石の揺らぎの強さ、(d)は静的な磁場の強さを表しています。横方向の揺らぎ(𝜆𝑎𝑏)が強く、縦方向の揺らぎ(𝜆𝑐)がほとんどないことがわかります。
スカーミオンの踊りは縦方向が好き!
磁場をかけてスカーミオンができる状態(SL相)では、磁石たちの「踊り」の方向が劇的に変わりました。今度は、縦方向(上下)の動きが活発になり、横方向の動きは温度が下がるにつれてどんどん少なくなっていったのです。
これは、スカーミオンが「息をする」ように膨らんだり縮んだりする動きが好きだということです。まるで、風船を膨らませたり縮めたりするように!
図3の説明: (a)は0.75テスラの磁場をかけたときの磁石の揺らぎです。SL相では縦方向の揺らぎ(𝜆𝑐)が強く、横方向の揺らぎ(𝜆𝑎𝑏)は温度とともに減少します。(b)は静的な磁場の方向を示しています。IC-2相では平面的、SL相ではより立体的な磁場があることがわかります。(c)は2テスラの強い磁場でのIC-2相の様子です。
この研究はなぜスゴイの?
この研究が示したのは、スカーミオンのような特殊な磁気構造が「左右対称」の材料でも存在できる理由です。それは、磁石たちの踊りに方向性(科学者は「異方性」と呼びます)があるからなのです!
普通の「左右非対称」材料では、磁石たちは特定の方向に回転するように指示されています。でも「左右対称」材料では、そういう指示はありません。
それなのに、スカーミオンができるのは、磁石たちが自分で「こっちの方向が踊りやすい」と決めているからだと考えられます。これは、ダンスフロアに印がなくても、ダンサーたちが自然と一定の方向に動くようなものです。
この発見は、未来のコンピュータや記憶装置などの技術開発にも役立つかもしれません。スカーミオンは情報を記録するのに使える可能性があるからです!
まとめ:この研究でわかったこと
- 左右対称の材料Gd₂PdSi₃の中でも、スカーミオンという磁気の渦巻きが存在します。
- 冷たい状態(IC-1相)では、磁石たちは主に横方向に揺らぎ、複雑な三つのパターンを持つ構造を作ります。
- 磁場をかけたスカーミオン格子状態(SL相)では、磁石たちは主に縦方向に揺らぎます。
- さらに温度を上げた状態(IC-2相)では、磁石たちはどの方向にも均等に揺らぎ、より単純な構造になります。
- スカーミオンが「左右対称」材料でも存在できるのは、磁石の揺らぎに方向性(異方性)があるからだと考えられます。
- この発見は、将来の新しい技術開発につながる可能性があります。
原論文の引用情報
Gomilšek, M., Hicken, T. J., Wilson, M. N., Franke, K. J. A., Huddart, B. M., Štefančič, A., Holt, S. J. R., Balakrishnan, G., Mayoh, D. A., et al. (2025). Anisotropic Skyrmion and Multi-𝑞 Spin Dynamics in Centrosymmetric Gd2PdSi3. Physical Review Letters, 134, 046702. Published January 29, 2025. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.046702