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地球の宝物工場:大きな石の端っこがキラキラ鉱物を作る秘密

みなさんは、キラキラ光る宝石や金、銀などの宝物が地球のどこから来るか考えたことがありますか?実は、地球の中には「大きな石の塊」(クラトンといいます)があって、その「端っこ」に宝物がたくさん集まっているんです!これはまるで、お菓子の箱の端っこにチョコレートがたくさん集まっているようなものです。

今日は、地球の中で起きている「宝物工場」のひみつについて、科学者たちの新しい発見をお話しします。

地球の中の「大きな石の塊」って何?

地球の表面には「クラトン」と呼ばれる、とっても古い(20億年以上も前からある!)大きな石の塊があります。これは、地球の「おじいちゃん」のような部分で、とても厚くて安定しています。

クラトンの下には、「マントル」という熱い岩石の層があり、その一番下の部分を「大陸の根っこ」と呼びます。これは、大きな木の根っこのように地球の深いところまで伸びています。

クラトンと普通の地面の境目、つまり「クラトンの端っこ」には、金、銅、レアメタルなどの宝物がたくさん見つかっています。どうしてクラトンの端っこにだけ宝物が集まるのでしょうか?

図1:炭酸塩岩、硫化物鉱床とクラトンの端との関係

図1の説明: この世界地図は、炭酸塩岩(青い点)、硫化物鉱床(赤い三角)、クラトン(灰色の部分)とその端(黒い線)の位置を示しています。ほとんどの宝物(鉱床)とシュワシュワした岩(炭酸塩岩)がクラトンの端っこに集まっていることがわかります。

地球の中のスペシャルなジュース

地球の中には、「炭酸塩マグマ」という特別なジュースがあります。これは、サイダーのように泡(二酸化炭素)がたくさん入ったマグマ(溶けた岩石)です。このジュースは地球の深いところから湧き出して、クラトンの下を通り、端っこに向かって移動します。

科学者たちは、この泡だらけジュースが「大陸の根っこ」と出会うとどうなるのか調べるために、特別な実験をしました。とても高い圧力と温度(地球の内部のような環境)を作り出し、炭酸塩マグマと岩石を一緒に入れて反応を見たのです。

冷えていくジュースの変身

科学者たちの実験でわかったことは、クラトンの下を移動する炭酸塩マグマは、最初は「炭酸塩ケイ酸塩マグマ」といって、ケイ素(砂の主成分)が20〜30%くらい入っています。

このマグマがクラトンの下の冷たい岩石と接触すると、ケイ素が減っていき、最後には「カーボナタイト」という、ほとんどケイ素のない(10%未満)マグマに変わります。これはまるで、ジュースの中の果肉が少しずつ沈殿していくようなものです。

図3:実験における相の割合と組成の変化

図3の説明: この図は、実験で温度を変えたときのマグマの変化を示しています。上の絵(a)は、温度が下がると、液体(マグマ)が減って固体(鉱物)が増えることを示しています。中央の絵(b)は、温度が下がるとマグマの中のケイ素(SiO2)が減ることを示しています。下の絵(c、d)は、ケイ素が減るとマグマに溶ける硫黄の量も減ることを示しています。

硫黄の宝物袋ができるしくみ

実験で一番面白いことがわかりました。炭酸塩マグマがケイ素の少ないカーボナタイトに変わっていくとき、硫黄を溶かす力が弱くなるのです!

最初の炭酸塩ケイ酸塩マグマは硫黄をたくさん溶かせます(0.2%以上)。でも、ケイ素が減るにつれて硫黄を溶かせる量もどんどん減っていきます。そうすると、溶けきれなくなった硫黄は「硫化物」という形で沈殿し、クラトンの端っこの「大陸の根っこ」に集まっていくのです!

これはちょうど、温かいジュースにたくさん溶かした砂糖が、冷えてくると結晶になって底に沈むのと同じです。

図4:マグマの組成変化と硫黄に富んだ大陸の根の形成

図4の説明: この図は、マグマがどのように変化するかを示しています。上の絵(a)は、温度と圧力によってマグマの中のケイ素がどう変わるかを示しています。下の絵(b)は、マグマがクラトンの下を移動しながら変化し、硫黄を落としていく様子を示しています。硫黄はクラトンの端っこにたまっていきます。

地球の鉱山作りプロジェクト

科学者たちは、世界中のクラトンの縁から採取された岩石の硫黄含有量を調べました。すると、クラトンの端っこの深さ160〜190kmの「大陸の根っこ」には、他の場所の岩石よりもずっと多くの硫黄が含まれていることがわかりました!

図2:世界中のペリドタイト(マントルの岩石)の硫黄分布

図2の説明: この図は、いろいろな場所から採取した岩石の硫黄含有量を示しています。左上の絵(a)と右上の絵(b)は、クラトンの岩石には他の場所よりも硫黄がたくさん含まれていることを示しています。下の絵(c)は、深さ160〜190kmの「大陸の根っこ」に特に多くの硫黄があることを示しています。

さらに面白いことに、世界中の金属鉱床(銅、ニッケル、白金など)の約93%と、炭酸塩岩(カーボナタイト)の約63%がクラトンの端から200km以内にあることもわかりました!これは偶然ではなく、炭酸塩マグマが硫黄を運ぶプロセスが、宝物を作るための重要なステップだということです。

図5:地殻変動と炭酸塩岩の時間的関係

図5の説明: この図は、大陸が分裂する時期と炭酸塩岩ができる時期の関係を示しています。炭酸塩岩は大陸が分裂する約6百万年前に最も多く形成されることがわかります。これは、大陸が割れ始めるとき(リフト開始時)に炭酸塩マグマが活発になることを示しています。

この研究はなぜスゴイの?

この研究は、地球の宝物(金属鉱床)がどこにできやすいかを予測するのに役立ちます。

今までは、なぜクラトンの端っこに宝物が集まるのかよくわかっていませんでした。この研究で、炭酸塩マグマが移動する過程で硫黄を運び、クラトンの端っこに集めるしくみが明らかになりました。

未来の資源探査では、クラトンの端っこと炭酸塩岩(カーボナタイト)が見つかった場所を特に注目して調査すると、新しい宝物(鉱床)を発見できるかもしれません!

まとめ:この研究でわかったこと

  1. 地球の中のクラトン(古い大陸の塊)の端っこには、金属鉱床(宝物)がたくさんあります。
  2. クラトンの下には炭酸塩マグマ(泡だらけのジュース)が流れています。
  3. このマグマはクラトンの冷たい岩石と反応して、ケイ素が減り、カーボナタイトに変わります。
  4. ケイ素が減ると、マグマに溶ける硫黄の量も減るため、硫黄は硫化物として沈殿します。
  5. 沈殿した硫化物はクラトンの端っこの大陸の根っこに集まります。
  6. この硫黄に富んだ大陸の根っこが、後の火山活動で地表近くに運ばれ、金属鉱床になります。
  7. 世界中の金属鉱床炭酸塩岩の多くがクラトンの端から200km以内にあります。

原論文の引用情報

Chen, C., Förster, M. W., Shcheka, S. S., Ezad, I. S., Shea, J. J., Liu, Y., Jacob, D. E., & Foley, S. F. (2025). Sulfide-rich continental roots at cratonic margins formed by carbonated melts. Nature, 637, 615-621. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08316-w

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