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宇宙の大きな飲み込み屋さんたちのダンスパーティー

みなさんは、遊園地の「ブラックホール」というアトラクションに乗ったことがありますか?とっても速く回って、中に入ると何もかも吸い込まれていくような感じがしますよね。実は宇宙には、本物の「ブラックホール」があるんです!これは何でも吸い込んでしまう宇宙の大きな飲み込み屋さんのようなもの。今日は、この宇宙の飲み込み屋さんたちが集まって行う「ダンスパーティー」のお話です。

宇宙のコマ回し大会?ブラックホールのスピンとは

ブラックホールは、ただ静かにそこにいるだけではありません。実は「スピン」といって、コマのようにクルクル回っているんです!このスピンは、ブラックホールの大きさや成り立ちを知る手がかりになります。

コマを思い浮かべてみてください。まっすぐ立って回るコマもあれば、少し傾いて回るコマもありますよね。ブラックホールも同じで、回り方にはいろいろなパターンがあります。科学者たちは、この回り方を「χeff(カイ・エフ)」「χp(カイ・ピー)」という2つの数字で表しています。

まっすぐ回っているブラックホールは「χeff」の値が+1に近く、逆向きにまっすぐ回っているなら-1に近くなります。そして、斜めに傾いて回っているなら「χp」の値が大きくなるんです。これはちょうど、机の上でまっすぐ回るコマと、少し傾いて回るコマの違いのようなものですね。

ブラックホールには「体重制限」があるの?

私たち人間には、生まれてくる赤ちゃんの大きさにある程度の範囲がありますよね。実は、ブラックホールにも似たような「体重制限」があると科学者たちは考えていました。

恒星(お日様のような星)が最後に爆発するとき、「対不安定性超新星爆発」という現象が起きると、ある特定の重さ(約40~70太陽分の重さ)のブラックホールは生まれにくいと考えられていました。これを「質量ギャップ」と呼びます。

でも不思議なことに、科学者たちが「重力波」という宇宙のさざなみを観測したところ、この「体重制限」を超えたブラックホールがたくさん見つかったのです!いったいなぜでしょう?

図1:スピンパラメータの分布

図1の説明: この図は、星団モデルから予測されるブラックホールのスピンパラメータ(χeffとχp)の分布を示しています。線がほとんど重なって見えるのは、異なるモデルや初期条件によらず、これらの分布がほぼ同じになることを示しています。つまり、合体でできたブラックホールは特徴的なスピンの分布を持っているのです。

ブラックホールの家族ができる秘密

科学者たちは、この謎を解くために「階層的形成」という考え方を提案しました。これは、小さなブラックホールが集まってダンスパーティー(合体)をして、より大きなブラックホールになるという考え方です。

例えば、おもちゃのブロックを考えてみましょう。小さなブロックをくっつけて、より大きなブロックを作ることができますよね。それと同じように、小さなブラックホールどうしがくっついて、もっと大きなブラックホールになることがあるんです。

特に、たくさんの星が密集している「星団」の中では、ブラックホールたちが出会う機会がたくさんあります。ちょうど、たくさんの子どもたちが集まる遊園地では、友だちに出会う機会が多いのと同じですね。

赤ちゃんブラックホールと大人ブラックホール

このように合体でできたブラックホールを、科学者たちは「2世代目(2G)ブラックホール」と呼びます。これに対して、星が直接爆発してできたブラックホールは「1世代目(1G)ブラックホール」と呼ばれます。

例えるなら、1世代目は「赤ちゃんブラックホール」、2世代目は「大人ブラックホール」といったところでしょうか。そして、2世代目どうしが合体すると、さらに大きな「おじいちゃんブラックホール」ができることになります。

この家族の特徴として、2世代目(大人)ブラックホールは特別な回り方をすることがわかっています。それは、どの方向にも均等に回る可能性がある「等方的なスピン」と呼ばれるものです。これはちょうど、目隠しをして回したコマがどの方向に倒れるかわからないのと似ています。

図2:ブラックホールの質量としきい値

図2の説明: この図は、研究チームの解析結果を示しています。左上のパネルは、スピン分布が変わる質量のしきい値(~44太陽質量)を示しています。中央と下のパネルは、しきい値の上と下でのχeffとχpの分布の違いを示しています。太い線は中央値を、薄い線は個々のサンプルを示しています。

科学者たちの大発見!

科学者たちは、たくさんの重力波データを分析して、面白い発見をしました。それは、約44太陽質量という「境界線」を超えると、ブラックホールの回り方(スピン)が大きく変わるということです!

この境界線より小さいブラックホールは、あまり傾かずにゆっくり回る傾向があります。一方、境界線より大きいブラックホールは、どの方向にも均等に回る可能性があり、その分布は「階層的形成」の理論とぴったり一致するのです。

科学者たちは統計的な計算をして、この結果が偶然ではなく、本当に「階層的形成」が起きている証拠だと結論づけました。具体的には、通常のモデルよりも「階層的形成」モデルが10,000倍以上も観測データをよく説明できるとわかったのです!

なぜこの研究はすごいの?

この研究は、宇宙の中で起きている「ブラックホールのダンスパーティー」の様子を明らかにしました。特に、質量の大きなブラックホールたちは、小さなブラックホールどうしが合体して生まれた「家族」であることがわかったのです。

将来、もっとたくさんの重力波が観測されれば、ブラックホールの家族の歴史をもっと詳しく知ることができるでしょう。また、科学者たちは「楕円形の軌道」や「90太陽質量を超える超巨大ブラックホール」など、階層的形成から予測される他の現象も調べています。

まとめ:この研究でわかったこと

  1. ブラックホールには「スピン」があり、コマのように回っている。
  2. 理論では「質量ギャップ」があるはずだが、実際には大きなブラックホールも存在する。
  3. 大きなブラックホールは小さなブラックホールどうしの「合体」でできている。
  4. 「約44太陽質量」を超えると、ブラックホールのスピン分布が変わる。
  5. 大きなブラックホールのスピン分布は「等方的」で、どの方向にも均等に回る。
  6. 観測されたブラックホールの約1%が階層的形成でできた可能性がある。

原論文の引用情報

Antonini, F., Romero-Shaw, I. M., & Callister, T. (2025). Star Cluster Population of High Mass Black Hole Mergers in Gravitational Wave Data. Physical Review Letters, 134, 011401. Published online January 7, 2025. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.011401

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