世界一正確な「原子のブランコ」時計
みなさんは、遊び場のブランコで遊んだことがありますか?ブランコは、前と後ろに規則正しく揺れますよね。ところで、家の時計を見たことがありますか?昔の時計の中には、「振り子」という重りが左右に規則正しく揺れることで時間を刻むものがありました。この振り子は、ブランコと同じように規則正しく動くことで、正確な時間を教えてくれるのです。
科学者たちは、もっともっと正確な時計を作るために、目に見えない小さな原子をブランコのように揺らして時間を測ることを考えました。今回の研究では、インジウムとイッテルビウムという特別な原子を使って、世界で最も正確な「原子のブランコ」時計を作りました!
なぜこんなに正確な時計が必要なの?
「そんなに正確な時計、本当に必要なの?」と思いますよね。でも、実はとっても大切なんです!
例えば、カーナビや地図アプリでは、たくさんの人工衛星からの信号を使って自分の位置を知っています。もし時計がズレていたら、「あれ?学校はこっちのはずなのに…」と道に迷ってしまうかもしれません。
それに、基礎物理学という、宇宙のふしぎなルールを探る科学では、時間をとても正確に測る必要があります。さらに将来は、高さの違いも正確に測れるようになります。山の高さをはかるだけでなく、地面のわずかな高低差まで分かるようになるのです!
「原子のブランコ」はどうやって時間を測るの?
普通の時計の秒針は、1秒間に1回動きます。では、原子時計はどうやって時間を測るのでしょうか?
原子の中の電子(小さな電気の粒)は、エネルギーをもらうと「ジャンプ」して高い場所に行きます。そして、エネルギーを出すと下の場所に戻ってきます。このジャンプは、ブランコのように決まったリズムで起こります。
科学者たちは、レーザー光線(特別な光)を使って原子の電子にエネルギーを与え、ジャンプさせます。そして、その原子が光を吸収したり放出したりする様子を見て、時間を測るのです。
図1の説明: この絵には、原子時計がどのように時間を測るかが描かれています。まず、原子たちを正しい場所に並べます(上の絵A)。次に、原子を冷やして動きを止めます。そして、レーザー光線を当てて「原子のブランコ」を揺らします。最後に、原子がどう反応したかを調べて、時間を測ります。
「冷凍の原子チーム」でもっと正確に!
この研究では、クーロン結晶と呼ばれる特別な方法を使いました。これは、原子を超低温(とても冷たい温度)で並べる技術です。
想像してみてください。運動会のリレーで走っている人を正確に数えるのは難しいですよね。でも、じっと立っている人なら簡単に数えられます。同じように、原子が動き回っていると正確に観察できませんが、冷やして静かにさせれば、とても正確に観察できるのです!
この研究では、インジウムイオン(電気を持った原子)とイッテルビウムイオンを一緒に冷やしました。イッテルビウムは「冷蔵係」として、インジウムを冷やす手伝いをします。まるで暑い日に友達が冷たい飲み物をくれるようなものですね!
「原子のブランコ」をたくさん使うと何がいいの?
みんなは、じゃんけんをするとき、「最初はグー、じゃんけんポン!」と1回だけするかもしれません。でも、大事な勝負のときは「2回勝負」や「3回勝負」にして、より公平な結果を求めますよね。
原子時計も同じです。1つの原子だけで時間を測ると、時々間違うことがあります。でも、たくさんの原子で同時に測れば、より正確になります!
科学者たちは、1つのインジウムイオンから始めて、最終的には4つのインジウムイオンを使って時間を測りました。その結果、時計の精度が約1.7倍も良くなりました!まるで、1人で音楽を聴くより、4人で聴いたほうが「今、ドの音が鳴ったよ!」と正確に言えるようなものです。
図4の説明: この絵は、インジウムイオンを1つ、2つ、4つと増やしていったときに、時計の精度がどれだけ良くなるかを示しています。横軸はインジウムイオンの数、縦軸は時計のズレの大きさ(小さいほど良い)です。イオンが増えるほど、線が下に行くことから、時計がより正確になっていることがわかります。
世界中の「原子のブランコ」と比べてみた!
世界には、いろいろな種類の原子時計があります。それぞれの時計は、違う種類の原子を使っています。例えば、ストロンチウム原子やイッテルビウム原子を使った時計もあるんです。
科学者たちは、今回作ったインジウム原子時計と、他の原子時計を比べてみました。それは、みんなが「3時だよ」と言っているとき、新しい時計も本当に「3時」と言うかを確認するためです。
この比較は、とても長い時間(約1週間!)かけて行われました。その結果、インジウム原子時計は他の時計とほとんど同じ時間を示し、その差はなんと0.0000000000000044(ゼロが16個!)しかありませんでした!これは、地球の年齢(約46億年)の間でも、1秒もズレないレベルなのです!
図3の説明: この絵は、インジウム原子時計の周波数(原子のブランコの振動数)がどのように測定されてきたかを示しています。青い線と青い影は、これまでの推奨値とその不確かさです。新しい測定値(赤い点)は、より精度が高く、以前の測定値(他の点)とも一致しています。
まとめ:この研究でわかったこと
- インジウムイオンとイッテルビウムイオンを使った「クーロン結晶時計」は、世界で最も正確な時計の一つ!
- この時計は、なんと2.5×10⁻¹⁸という超高精度!これは、460億年(宇宙の年齢の3倍以上!)経っても1秒しかズレない精度です。
- 複数のイオンを使うことで、時計の精度をさらに上げることができる!
- この高精度時計は、基礎物理学のテストや高さの精密測定、そして将来の時間の定義の改良に役立ちます。
- 世界中の異なる原子時計を比較することで、それぞれの時計の正確さを確認できました。
この研究のおかげで、世界中の時計がもっと正確になり、科学の発展に大きく貢献することでしょう。みなさんが大人になるころには、もっとすごい時計ができているかもしれませんね!
原論文の引用情報
H. N. Hausser, J. Keller, T. Nordmann, N. M. Bhatt, J. Kiethe, H. Liu, I. M. Richter, M. von Boehn, J. Rahm et al. (2025). 115In+−172Yb+ Coulomb Crystal Clock with 2.5×10−18 Systematic Uncertainty. Physical Review Letters, 134, 023201. Published January 16, 2025. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.023201