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スマートウォッチとAIで心の健康を見える化

みなさんは、毎日の体温や歩いた歩数を記録したことがありますか?健康な体づくりには、日々の様子をきちんと記録することが大切ですよね。でも、わたしたちの「こころの健康」はどうやって記録したらいいのでしょうか?

科学者たちは、スマートウォッチという特別な腕時計を使って、こころの健康を見える化する方法を見つけました!これは、あなたの体がひそかに話している「ささやき」を記録するような、とても賢い方法なんです。

スマートウォッチが記録する「からだの日記」

学校で日記を書くとき、その日に見たもの、感じたこと、行ったことなどを書きますよね。スマートウォッチは、あなたの体が自動的に書いている「からだの日記」を読み取る装置なんです!

この特別な時計は、あなたの心拍数(心臓がドキドキする速さ)、歩数(何歩歩いたか)、睡眠(どれくらい深く眠れたか)などを24時間ずっと記録します。まるで、あなたのからだに小さな記者さんがついていて、常に記録をとっているようなものです。

科学者たちは、この「からだの日記」をデジタルフェノタイプと呼んでいます。難しい言葉ですが、要するに「デジタル化された体の特徴」という意味です。これは、あなたが毎日学校で書く日記よりもずっと詳しく、正確な記録なんですよ!

図1:臨床、デジタル、遺伝データを活用して精神疾患の理解を深める

図1の説明: この図は研究の全体像を示しています。上の部分(A)では、スマートウォッチから得られたデータ(デジタルフェノタイプ)がどのように臨床診断(マクロフェノタイプ)と遺伝子(ジェノタイプ)を結びつけるのかを説明しています。中央部分(B)では、研究に参加した11,878人の子どもたちの様々な精神疾患の内訳が示されています。ADHDや不安障害の子どもが多いことがわかります。下の部分(C, D)では、FitBitというスマートウォッチから収集されたデータと遺伝子データの分析方法について示されています。

人工知能(AI)という「とても賢いコンピューター先生」

この研究では、人工知能(AI)という「とても賢いコンピューター先生」が大活躍しました。AIは、スマートウォッチが集めた膨大なデータを分析して、パターンを見つける天才なんです!

私たちの頭では、毎日の心拍数、歩数、睡眠時間などの複雑なデータから意味を見つけるのは難しいですよね。でも、AIはそれが得意!まるで、散らかった部屋の中から隠れた宝物を見つけられるスーパー探知機のようなものです。

科学者たちは、AIにこう頼みました:「このスマートウォッチのデータを見て、どの子がADHD(落ち着きにくさや集中力に関する特性)や不安障害(心配が強い状態)を持っているか当ててみて!」

すると驚いたことに、AIは高い精度で当てることができたのです!例えば、ADHDを見分ける時の正確さは約87〜89%でした。これはまるで、100回中87〜89回も正しく答えられるような、とても賢い先生のようなものです。

図2:データ処理、特徴抽出、AIモデルの構造

図2の説明: この図は、データがどのように処理されるかを示しています。上の部分(A)は、子どもたちの基本情報(年齢や性別など)を示しています。中央部分(B, C)では、スマートウォッチから得られたデータがどのように処理されるかを説明しています。下の部分(D, E)では、AIがデータをどのように分析するかを示しています。AIは特別な「深層学習」という方法で、時間とともに変わるパターンも見つけることができます。

AIが見つけた「心とからだの時間割」

学校には時間割がありますよね。1時間目は国語、2時間目は算数...というように。実は、わたしたちのからだにも「時間割」があるんです!

科学者たちは、AIに「どの時間帯のデータが最も重要か」を調べさせました。とても面白い発見があったんですよ。

ADHDの子どもたちは、午後の早い時間帯に特徴的な心拍パターンを持っていることがわかりました。これはちょうど、学校から帰って少し疲れている時間かもしれませんね。

一方、不安障害の子どもたちは、夜間の睡眠中のパターンが最も特徴的でした。あなたの友達でよく眠れなくて心配事が多い子がいたら、もしかしたら不安障害かもしれないのです。

これはまるで、それぞれの特性を持つ子どもたちが、特定の時間帯に「私はここにいるよ!」と手を挙げているようなものですね。

図3:精神疾患分類モデルの性能と解釈可能性

図3の説明: この図は、AIモデルがどれくらい正確に診断できるかを示しています。上の部分(A, B)では、ADHDと不安障害を判別する精度が示されています。中央部分(C, D)では、どの特徴が最も重要かを示しています。例えば、ADHDでは心拍数が最も重要な特徴だとわかります。下の部分(E, F)では、1日のうちどの時間帯のデータが最も診断に役立つかを示しています。

からだの日記と「遺伝子の設計図」をつなげる

みなさんは、「遺伝子」について聞いたことがありますか?遺伝子は、わたしたちのからだの「設計図」のようなもので、お父さんとお母さんから受け継いだものです。

科学者たちは、スマートウォッチから得られた「からだの日記」と、この「遺伝子の設計図」を比べてみました。すると、とても面白いことがわかったのです!

ある特定の遺伝子を持つ子どもは、他の子どもとは違う「からだの日記」を持っていました。例えば、ADORA3という遺伝子を持つ子どもたちは、ADHDと関連する特徴的なパターンを示していたのです。

これは、レゴブロックの説明書(遺伝子)と、実際に作ったもの(からだの状態)の間に関係があるようなものです。説明書の一部が違うと、作られるものも少し違ってくるのです。

図4:ADHDに関する多変量・単変量GWASの結果をまとめたマンハッタンプロット

図4の説明: この図は、「マンハッタンプロット」と呼ばれるもので、どの遺伝子がADHDと関連しているかを示しています。上の部分(A)では従来の方法による分析結果、中央部分(B)と下の部分(C)では、スマートウォッチのデータを使った新しい分析方法の結果が示されています。高い点があるところが重要な遺伝子で、例えば、ADORA3という遺伝子がADHDに関連していることがわかります。

心と体をつなぐ「行動の遺伝子」を探す旅

科学者たちは、特定の病気だけでなく、人間の行動全般に関係する遺伝子も探しました。これは、広い海の中から特別な宝物を見つけるような、壮大な旅です!

この旅で、科学者たちは「MYH6」という心臓の働きに関わる遺伝子を発見しました。この遺伝子を持つ人は、心拍数のパターンが特徴的で、精神疾患とも関連があったのです。

また、「ELFN1」という遺伝子も見つかりました。この遺伝子は、脳の中の神経細胞がメッセージをやり取りする方法に影響し、子どもの活動量とも関係していることがわかりました。

これはまるで、学校の教室(脳)の中で、先生(神経細胞)がどうやって生徒たち(情報)に指示を出すかというルールが、遺伝子によって少し変わっているようなものですね。

図5:ウェアラブルGWASによる遺伝-生理-精神の関連性の探索

図5の説明: この図は、行動に関連する遺伝子を示しています。上の部分(A)では、様々な行動パターンに関連する遺伝子が示されています。中央部分(B)では、MYH6という遺伝子が心拍数と双極性障害に関連していることが示されています。下の部分(C)では、ELFN1という遺伝子が活動量とADHDに関連していることが示されています。

この研究はなぜスゴイの?

この研究は、スマートウォッチとAIを使うことで、心の健康をより客観的に見える化できることを示しました。これまでは、医師が子どもの様子を観察したり、質問したりして診断していましたが、それだけでは見逃してしまうことがあります。

スマートウォッチは24時間ずっと記録を取り続けるため、医師の診察室では見られない日常生活のパターンも捉えることができます。それは、あなたが友達と遊んでいるときや、夜眠っているときの様子も含まれます。

また、この研究は「こころの健康」と「遺伝子」の関係も明らかにしました。将来、この知識を使って、一人ひとりに合った治療法を開発できるかもしれません。あなただけの特別な「オーダーメイド治療」ですね!

まとめ:この研究でわかったこと

  1. スマートウォッチは、わたしたちの体の様々な情報(心拍数、歩数、睡眠など)を記録できる「からだの日記」を作れます。
  2. 人工知能(AI)は、この「からだの日記」から、ADHDや不安障害などの精神疾患の特徴を高い精度で見つけられます。
  3. 時間帯によって、特徴的なパターンが現れることがわかりました(ADHDは午後、不安障害は夜間など)。
  4. スマートウォッチのデータを使うことで、遺伝子と行動の関係をより詳しく調べることができました。
  5. MYH6という遺伝子は心拍数と関係し、ELFN1という遺伝子は活動量に関係していました。
  6. この研究は将来、一人ひとりに合った治療法の開発につながるかもしれません。

原論文の引用情報

Liu, J.J., Borsari, B., Li, Y., Liu, S.X., Gao, Y., Xin, X., Lou, S., Jensen, M., Garrido-Martín, D., Verplaetse, T.L., Ash, G., Zhang, J., Girgenti, M.J., Roberts, W., & Gerstein, M. (2024). Digital phenotyping from wearables using AI characterizes psychiatric disorders and identifies genetic associations. Cell, Published online December 19, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.11.012

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