パンクとエモの冒険:貝の仲間たちの驚きの歴史
みなさんは、おもちゃ箱をかたづけたことがありますか?最初はきれいに並べていたのに、だんだんバラバラになって、「これはどこに置けばいいの?」と困ることありませんか?科学者たちも、生き物の分類でそんな悩みを抱えていました。特に軟体動物(なんたいどうぶつ)という、カタツムリやタコ、貝などの仲間は、分類がとっても難しいのです!
今回、科学者たちは、4億3000万年前の海に住んでいた「パンク」と「エモ」という新しい生き物の化石を発見しました。これはまるで、おもちゃ箱の奥から「ここにいたよ!」と出てきた、知らなかったおもちゃを見つけたようなものです。この発見で、貝の仲間たちの家系図(かけいず)が書き換えられることになりました!
軟体動物ってどんな生き物?
軟体動物は、昆虫の次に種類が多い生き物のグループです。みなさんが知っているカタツムリや二枚貝(はまぐりやホタテなど)、タコやイカはみんな軟体動物です。
科学者たちは、軟体動物を大きく2つのグループに分けています:
- 貝殻グループ(コンキフェラ):カタツムリや二枚貝、タコなどが含まれます。
- 棘をもつグループ(アクリフェラ):ヒザラガイ(8枚の殻を持つ貝)とヒーソコガイ(殻のない細長い貝)が含まれます。
長い間、科学者たちは「棘をもつグループ」はあまり変化しない、保守的なグループだと考えていました。それは、現在生きている種類があまり変わった形をしていないからです。でも、今回の発見で、その考えが間違っていたことがわかりました!
「パンク」と「エモ」って何者?
今回見つかった化石は、イギリスのヘレフォードシャーという場所から発見されました。科学者たちは、これらの化石を特別な方法で調べて、3Dモデルとして復元しました。
パンク・フェロックス(Punk ferox)
「パンク」は、細長い体に尖ったトゲがたくさん生えている生き物です(図1)。パンクロックの髪型のように尖ったトゲが特徴的なので、この名前がつけられました!
図1の説明: この絵は、パンク・フェロックスを3Dで復元したものです。上の絵(a-c)は全体像を異なる角度から見たところです。尖ったトゲがたくさん生えていて、まるでパンクロッカーのようです!中央の絵(d-h)は体の断面図で、体の構造がわかります。下の絵(i-u)では、体の各部分の詳細が示されています。特に、後ろ半分にはエラがあり、息をするのに使っていたことがわかります。
パンクの特徴:
- 細長い体で、殻がありません
- 背中と腹側に「中央の尾根」があります
- 背中と横にたくさんの尖ったトゲが生えています
- 体の後ろ半分に約25対のエラがあります
パンクは、現在のヒーソコガイのように細長い体と尖ったトゲをもっていますが、ヒザラガイのように足とエラも持っています。これは、「りんごとみかんの特徴を両方持つ不思議なフルーツ」を見つけたようなものです!
エモ・ボルティカウダム(Emo vorticaudum)
「エモ」も細長い体をしていますが、パンクとは少し違います(図2)。前の部分に小さな2枚の殻があり、後ろの部分がくるくると回転したトゲで覆われています。エモ系の長い前髪と、スタッズ付きの服を思わせることから「エモ」と名付けられました!
図2の説明: この絵は、エモ・ボルティカウダムの3D復元図です。上の絵(a-c)では全体像が見えます。前部に2枚の小さな殻があり、体全体に長いトゲが生えています。中央の絵(d-i)は体の断面図です。下の絵(j-t)では体の各部分の詳細が見えます。特に、体の後ろ部分(r4)は呼吸のための特別な構造になっています。
エモの特徴:
- 細長い体で、前の部分に2枚の小さな殻があります
- 背中と横に尖ったトゲがたくさん生えています
- 足がありません
- 体の後ろに呼吸のための部屋があります
エモは、現在のヒーソコガイのように細長い体と後ろに呼吸器官を持ちますが、ヒザラガイのように殻も持っています。これは、「自転車とスケートボードの特徴を両方持つ不思議な乗り物」のようなものです!
パンクとエモはどうやって動いていたの?
パンクとエモの体の形は、現在の軟体動物とは少し違います。どうやって動いていたのでしょうか?
パンクは「足」のような部分がありますが、現在の軟体動物のようなペタッとした足ではなく、尾根(リッジ)のような形をしています。どうやって海底を這っていたのかは、まだ謎です。
エモには通常の足がありません。科学者たちは、エモが「いもむし」のように体を折り曲げて動いていたのではないかと考えています。体の後ろ部分にある特別なトゲを使って、後ろに滑らないようにしながら前に進んでいたのかもしれません。これは今の生き物には見られない、新しい動き方です!
なぜこの発見がすごいの?
この発見がすごい理由は、「軟体動物の初期の歴史がとても複雑だった」ことを教えてくれるからです。
今まで科学者たちは、「棘をもつグループ」(アクリフェラ)はあまり変化せず、単純な進化をしてきたと考えていました。でも、パンクとエモの発見により、実は昔の「棘をもつグループ」はとても多様な形をしていたことがわかりました!
これは、古い写真アルバムを見つけたら、おじいちゃんが若い頃はモヒカン頭のロックスターだったことがわかった、というくらいの驚きです!現在のヒザラガイやヒーソコガイは、かつてはもっと多様だったグループの生き残りにすぎないのです。
軟体動物の家系図が書き換えられた!
科学者たちは、パンクとエモの特徴を詳しく調べて、軟体動物の家系図(系統樹)を新しく描きました(図3)。
図3の説明: この図は、軟体動物の新しい家系図です。灰色の枝は現在も生きている生物、黒い枝は絶滅した生物を表しています。パンクとエモ(太字で示されている)がどこに位置するかがわかります。パンクは現在のヒーソコガイに近い場所に、エモはヘロプラキッドという別の化石グループと近い関係にあることがわかります。
この家系図から、軟体動物の進化について新しいことがわかりました:
- 殻の数は何度も変化した:殻は単純に減っていったのではなく、いろいろなグループで独立して数が変わりました。
- 足も複数回獲得されたり失われたりした:これは、自転車の車輪のように、基本的な部品でも進化の中で何度も変化することを示しています。
- エモの後ろ部分の呼吸器官も、別のグループで独立して進化した可能性があります。
これらの発見は、昔の「棘をもつグループ」が考えられていたよりもずっと多様で複雑だったことを示しています。現在生きている種類は、かつての多様な姿のほんの一部にすぎないのです!
まとめ:この研究でわかったこと
- シルル紀(約4億3000万年前)の海にいた「パンク」と「エモ」という新しい軟体動物の化石が発見されました。
- パンクは細長い体に尖ったトゲがたくさん生え、足とエラを持つ不思議な生き物でした。
- エモは前に小さな殻を持ち、後ろがくるくると回ったトゲで覆われた生き物で、「いもむし」のように動いていたかもしれません。
- この発見により、「棘をもつグループ」(ヒザラガイとヒーソコガイの仲間)が昔はとても多様な形をしていたことがわかりました。
- 軟体動物の殻や足などの特徴は、進化の過程で何度も獲得されたり失われたりしていました。
- 現在生きているヒザラガイやヒーソコガイは、かつてはもっと多様だったグループの生き残りにすぎないことがわかりました。
原論文の引用情報
Sutton, M. D., Sigwart, J. D., Briggs, D. E. G., Gueriau, P., King, A., Siveter, D. J., & Siveter, D. J. (2025). New Silurian aculiferan fossils reveal complex early history of Mollusca. Nature, 637, 631–636. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08312-0