身長のひみつ~骨の成長を支える仲間たち~
みなさんは、自分の身長がどうやって決まるか考えたことがありますか?お父さんやお母さんが背が高いと、子どもも背が高くなりやすいですよね。これは「遺伝子(いでんし)」というものが関係しています。遺伝子は、まるで「料理のレシピ本」のようなもので、どうやって体を作るかという説明書が書かれています。今日は、この「レシピ本」がどのように私たちの身長を決めているのか、そのひみつを探検してみましょう!
骨の成長と身長のふしぎ
みなさんの体の中には、骨がたくさんあります。この骨は、まるで「ビルの柱や壁」のようなもので、体をしっかり支えています。みなさんが大きくなるとき、この骨も一緒に伸びていくんです。
赤ちゃんのときは小さな骨でしたが、食べ物からエネルギーをもらって、少しずつ大きくなります。特に、手や足の骨は「長管骨(ちょうかんこつ)」と呼ばれ、中心から両端に向かって伸びていきます。まるでスーパーマーケットの棚が両端から伸びていくみたいに!
ところが、みんなの骨の伸び方は少しずつ違います。それは、それぞれの「レシピ本」(遺伝子)に書かれている指示が、少しずつ違うからなんです。
図1の説明: この図は研究者たちが骨の発達を調べるための実験計画を表しています。左側のAの図は、まるで地図のように人間の発達中の骨格を示しています。右側のBとCの図は、発達中の骨の小さな窓を開けて、その中で何が起きているかを覗いているようなものです。
骨の中の特別な職人さん「軟骨細胞」
みなさんの骨が伸びるとき、実は目に見えない小さな「職人さん」が働いています。この職人さんは「軟骨細胞(なんこつさいぼう)」と呼ばれています。
軟骨細胞は、まるで建物を建てる「大工さん」のようなものです。彼らは骨の両端にある「成長板(せいちょうばん)」という特別な場所で、新しい骨の材料を作り続けています。この「材料」が積み重なることで、骨はどんどん長くなっていくのです。
研究者たちは、この軟骨細胞がどのように働いているかを詳しく調べました。特に、「大工さん」がどんな「設計図」(遺伝子)を見て働いているのかを知りたかったのです。
図2の説明: この図は骨の中で活動している遺伝子(設計図)のパターンを表しています。上の部分(A)は、まるでカラフルな地図のように、どの遺伝子がどこで活躍しているかを示しています。骨の場所によって、活動している遺伝子が少しずつ違うことがわかります。下の部分(B、C)では、それぞれの骨の場所で特に活躍している遺伝子を比較しています。
関節ごとに違う「建設現場」
みなさんの体には、いろいろな関節があります。肩、ひじ、股関節、膝などですね。実は、これらの関節によって、骨の成長の仕方が少し違うのです!
研究者たちは、それぞれの関節の近くにある骨の成長を調べました。すると、同じ骨(例えば大腿骨)でも、膝に近い部分と股関節に近い部分では、働いている遺伝子が違うことがわかりました。
これは、まるで学校の運動会で、赤組と白組が違う踊りを練習しているようなものです。同じ学校の子どもたちでも、場所によって違う活動をしているんですね。
図3の説明: この図は、それぞれの関節(A:ひじ、B:肩、C:膝、D:股関節)で活躍している遺伝子を示しています。まるで、それぞれの関節が違う「お祭り」を開いていて、参加している「人(遺伝子)」が違うようなものです。上の部分では、それぞれの関節特有の「指揮者」(転写因子)が示されています。下の部分では、その関節で特に活躍している遺伝子が赤い点で示されています。
身長の遺伝子はどこにある?
みなさんは「宝探し」をしたことがありますか?研究者たちは、身長を決める遺伝子を探す「宝探し」をしています。でも、この「宝」は一箇所にあるのではなく、体中に散らばっているのです!
研究者たちは、たくさんの人の遺伝子と身長を調べて、どの遺伝子が身長に関係しているかを探しました。すると、面白いことがわかりました。身長に関係する遺伝子のほとんどは、骨の中の「職人さん」(軟骨細胞)が使う「設計図」の中にあったのです。
特に、骨全体で使われる「共通の設計図」が、身長に大きな影響を与えていることがわかりました。これは、まるで学校の校舎を建てるとき、「基本設計図」が最も重要なのと同じですね。
図4の説明: この図は身長に関わる遺伝子の分布を示しています。左上(A)では、身長に関係する遺伝子が、骨のどこで活動しているかを円グラフで表しています。多くの遺伝子が複数の骨で活動(プレイオトロピック=多面発現)していることがわかります。右側(B-E)では、それぞれの骨の部位で活動している遺伝子と身長の関係を示しています。全身で使われる遺伝子ほど、身長への影響が大きいようです。
「仲良しグループ」で働く遺伝子たち
みなさんには、一緒に遊ぶ仲良しのお友達がいますか?実は、遺伝子の世界でも「仲良しグループ」があるんです。研究者たちは、いつも一緒に働く遺伝子たちを「モジュール」と呼んでいます。
これらのモジュールは、まるで「オーケストラのセクション」のようなものです。弦楽器セクション、木管セクション、金管セクションなど、それぞれが協力して美しい音楽を奏でます。同じように、遺伝子も「仲間」と一緒に働くことで、骨の成長という複雑な作業を成し遂げているのです。
研究者たちは、特に「CD1」と名付けられたモジュールが、身長に大きく関わっていることを発見しました。このグループには、骨の成長に必要な栄養(糖)を使う遺伝子がたくさん含まれていました。まるで、建設現場で材料や道具を管理する「資材部」のような役割です!
図5の説明: この図は遺伝子の「仲良しグループ」(モジュール)と身長の関係を表しています。左上(A)は、モジュールの概念図です。まるで友達のサークルのように、遺伝子が集まっています。真ん中(B)では、それぞれのモジュールがどんな仕事をしているか示しています。特に「CD1」というグループが重要そうですね。下の部分(C, D)では、どのモジュールが身長に強く関わっているかを示しています。
「指揮者」として働く特別な遺伝子
オーケストラには指揮者が必要なように、遺伝子の世界にも「指揮者」がいます。これらは「転写因子(てんしゃいんし)」と呼ばれる特別な遺伝子で、他の遺伝子のスイッチをオン・オフする役割を持っています。
研究者たちは、「FOXP1」という転写因子が、身長の調節に重要な役割を果たしていることを発見しました。このFOXP1は、まるで学校の先生のように、たくさんの遺伝子に指示を出しています。FOXP1の指示が強くなると、骨の成長が変わり、身長に影響するのです。
面白いことに、この「指揮者」自身は目立たないけれど、とても重要な役割を果たしているのです。まるで、舞台の裏で働く演出家のようですね。
この研究はなぜスゴイの?
この研究は、私たちの身長がどのように決まるのかを、とても詳しく解明しました。今までは、「身長は遺伝する」ということはわかっていましたが、どの遺伝子がどのように関わっているのかは、はっきりわかっていませんでした。
研究者たちは、この研究で使った「調べ方」が、身長だけでなく、他の体の特徴や病気の研究にも役立つことを示しました。例えば、「2型糖尿病」という病気も、たくさんの遺伝子が関わっていて、同じような方法で研究できることがわかりました。
これは、まるで新しい「宝の地図」を見つけたようなものです。この地図を使えば、これからもっとたくさんの「宝物」(体の秘密)を見つけることができるでしょう!
まとめ:この研究でわかったこと
- 身長は、骨の成長によって決まります。
- 骨の成長には、軟骨細胞という特別な細胞が重要な役割を果たしています。
- 身長に影響する遺伝子は一つではなく、たくさんあります。特に、全身の骨で使われる「共通の遺伝子」が重要です。
- 遺伝子は「仲良しグループ(モジュール)」を作って、一緒に働いています。
- 「CD1」というモジュールには、骨の成長に必要な栄養(糖)を使う遺伝子がたくさん含まれています。
- 「FOXP1」のような「指揮者遺伝子」が、他の遺伝子の働きを調節しています。
- この研究で使った方法は、他の体の特徴や病気の研究にも役立ちます。
原論文の引用情報
Richard, D., Muthuirulan, P., Young, M., Yengo, L., Vedantam, S., Marouli, E., Bartell, E., GIANT Consortium, Hirschhorn, J., & Capellini, T. D. (2024). Functional genomics of human skeletal development and the patterning of height heritability. Cell, Published online November 15, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.10.040