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川のおそうじ屋さん大図鑑

みなさんは、川で泳いだり、川の水を見たりしたことがありますか?きれいな川の水は気持ちよく、たくさんの生き物が住んでいますね。でも、なぜ川の水がきれいになるのか考えたことはありますか?実は、目に見えない「川のおそうじ屋さん」が、毎日せっせと働いているのです!

この「川のおそうじ屋さん」とは、微生物(びせいぶつ)と呼ばれる、とても小さな生き物のことです。私たちが肉眼で見ることができないほど小さいのですが、川の中にはたくさんの種類の微生物がいて、みんなで力を合わせて川をきれいにしています。まるで、学校の掃除当番が教室をきれいにするように、微生物たちは川の中のいろいろな「ゴミ」を片付けているのです。

世界初!川のおそうじ屋さん大図鑑「GROWdb」ができました

科学者たちは、アメリカ中の川から水を集めて、その中にどんな「おそうじ屋さん」がいるのか調べました。100チーム以上の科学者が協力して、アメリカの川の90%以上から水のサンプルを集めたのです!これは、全国の小学校が協力して、日本中の川の水を集めるようなとても大きなプロジェクトです。

科学者たちは集めた水から微生物のDNAを取り出しました。DNAは「お仕事の設計図」のようなもので、それを読むことで、どんな微生物がいて、どんなお仕事(はたらき)をしているのかがわかります。

こうして作られたのが、「GROWdb(グロウ・データベース)」という、川のおそうじ屋さんの大図鑑です。この図鑑には、3,000種類以上もの微生物について、名前や特徴、どんなお仕事をしているのかが書かれています。まるで、「全国川のおそうじ屋さん名鑑」のようなものですね!

図1:GROWdbの作成方法と収集したデータ

図1の説明: 上の絵(a)は、どうやってGROWdbを作ったのかを示しています。科学者たちが川の水を集めて、その中のDNAを調べて、大きなデータベースを作りました。真ん中の絵(b)は、集めたサンプルの数と、どんな分析をしたのかを示しています。下の絵(c)は、アメリカのどこから水を集めたのかを地図で示しています。赤い点が水を集めた場所です。

川のおそうじ屋さんはどんな種類がいるの?

科学者たちが見つけた川のおそうじ屋さんは、全部で27の大きなグループ(と呼びます)に分かれていました。これは、動物の世界で例えると、ほ乳類、鳥類、爬虫類などの大きなグループのようなものです。

中でも、アクチノバクテリアプロテオバクテリアバクテロイドータベルコミクロビオータという4つのグループが、どの川でも特に多く見つかりました。これらは、川のおそうじ屋さんの「エース」と言えるでしょう。

特にプランクトフィリアという微生物は、ほとんどの川(70%)で見つかり、数も最も多かったのです。まるで、どの小学校にもいる「掃除の達人」のような存在です!

そして面白いことに、よく見つかる微生物は、同時にたくさん働いている(活動している)ことも分かりました。つまり、多くの場所にいる微生物ほど、熱心に「おそうじ」をしているのです!

川のおそうじ屋さんはどんなお仕事をしているの?

川のおそうじ屋さんたちは、さまざまなお仕事をしています。大きく分けると次のようなお仕事があります:

  1. 酸素を使ったおそうじ:人間が酸素を吸って生きているように、多くの微生物は酸素を使って、川の中の有機物(落ち葉や生き物の死がいなど)を分解します。

  2. 光を使ったエネルギー作り:植物のように、光を使ってエネルギーを作る微生物もいます。これは、光合成光ロドプシンというしくみを使います。

  3. 窒素のおそうじ:肥料や生活排水に含まれる窒素を変身させて、植物が使えるようにしたり、空気中に戻したりする微生物もいます。

  4. メタンや硫黄のおそうじ:メタン(天然ガスの主成分)や硫黄化合物を分解する微生物もいます。

図2:川のおそうじ屋さんの種類とお仕事

図2の説明: 上の絵(a)は、各サンプルで見つかった微生物の種類を示しています。色の違いは、微生物の大きなグループ(門)の違いを表しています。真ん中の絵(b)は、微生物がどれだけたくさんの場所で見つかったか(横軸)と、どれだけたくさんいたか(縦軸)を示しています。下の絵(c)は、最もよく働いている25種類の微生物の活動量と、それぞれがどんなお仕事(代謝)をしているかを示しています。

都会の川にはお医者さん対応の微生物が多い!?

川の微生物の中には、抗生物質耐性遺伝子(こうせいぶっしつたいせいいでんし)という特別な能力を持つものがいます。これは、お医者さんが使う抗生物質(細菌を退治する薬)が効かないようにする能力です。まるで、細菌にとっての「鉄の鎧」のようなものですね。

科学者たちが調べたところ、なんと1,587個もの抗生物質耐性遺伝子が見つかりました!これらの遺伝子は、1,135種類(全体の54.3%)の微生物が持っていました。

そして面白いことに、下水処理場が近くにある川ほど、抗生物質耐性遺伝子を使っている微生物が多かったのです。これは、人間が使った抗生物質が下水に流れ込み、そこで微生物が「鉄の鎧」を身につけるようになったのかもしれません。

図3:抗生物質耐性と川のおそうじ屋さんの分布パターン

図3の説明: 上の絵(a)は、下水処理場がある川とない川で、抗生物質耐性遺伝子(ARGs)の発現量を比較しています。下水処理場がある川の方が、抗生物質耐性遺伝子をたくさん発現していることがわかります。真ん中と下の図は、川のおそうじ屋さんの分布パターンと、それに影響する要因を示しています。

川の大きさによっておそうじ屋さんが変わる!

科学者たちは、いろいろな大きさの川を調べて、興味深いことを発見しました。それは、川の大きさ(河川次数)によって、住んでいる微生物の種類が違うということです!

川の大きさは、「河川次数」という1~12の数字で表します。1~3は小さな川、4~6は中くらいの川、7以上は大きな川です。そして科学者たちは、川の大きさによって微生物の種類や数、お仕事の内容が変わることを発見しました。

これは、「河川連続体概念(かせんれんぞくたいがいねん)」という考え方に合っています。これは、川は上流から下流へと連続的に変化していて、生物もそれに合わせて変わっていくという考え方です。まるで、山の上の小さな小学校から、だんだん大きな学校に転校していくような感じですね。

図4:川の大きさによる微生物の違い

図4の説明: 上の絵(a)は、川の大きさ(河川次数)によって、微生物の生活スタイルがどう変わるかを示しています。真ん中の絵(b)は、それをボックスプロットで表しています。下の絵(c)は、小さな川から大きな川への変化のモデルを示しています。

小さな川と大きな川では、おそうじ屋さんの食べ物も違う!

科学者たちが調べたところ、小さな川と大きな川では、微生物が「食べる」(分解する)ものも違うことがわかりました。

小さな川では、ポリマー(大きな分子)、芳香族化合物(木の葉などに含まれる)、を分解する微生物が多く活動していました。これは、小さな川には周りの木から落ちた葉っぱなどが多いからでしょう。

一方、大きな川では、メタノール(メチルアルコール)を分解する微生物が多く活動していました。メタノールは、川の中の植物プランクトンや他の微生物の活動から生まれます。

これは、小さな川から大きな川になるにつれて、「外来性」(川の外から来る)の食べ物から、「内来性」(川の中で作られる)の食べ物へと、微生物の食事が変わっていくことを示しています。

この研究はなぜスゴイの?

この研究は、川の中の目に見えない微生物の世界を、大規模に調べた初めての研究です。これまで、土や海の微生物については多くの研究がありましたが、川の微生物については比較的研究が少なかったのです。

特にスゴイのは、たくさんの科学者が協力して、アメリカ中の川から同じ方法でサンプルを集めたことです。これによって、いろいろな川の微生物を比較することができました。

また、微生物のDNAだけでなく、RNAも調べたことで、どの微生物がどんなお仕事を「実際に」しているのかもわかりました。DNAが「お仕事の設計図」なら、RNAは「今動いている機械」のようなものです。

この研究の成果は、川の水質を守ったり、環境の変化が川にどのような影響を与えるかを予測したりするのに役立ちます。また、川の微生物が持つ素晴らしい能力を利用して、新しい環境技術を開発するヒントにもなるでしょう。

まとめ:この研究でわかったこと

  1. 川にはたくさんの種類のおそうじ屋さん(微生物)がいて、川をきれいにしています。
  2. 科学者たちはGROWdbという川の微生物の大図鑑を作りました。
  3. 川のおそうじ屋さんには、酸素を使うもの、光を使うもの、窒素を変身させるものなど、いろいろな種類がいます。
  4. 都会の川や下水処理場の近くでは、抗生物質耐性遺伝子を持つ微生物が多く活動しています。
  5. 川の大きさによって、住んでいる微生物の種類や働きが変わります。これは河川連続体概念と一致しています。
  6. 小さな川の微生物は木の葉などの外来性の食べ物を好み、大きな川の微生物は川の中で作られる内来性の食べ物を好みます。

原論文の引用情報

Borton, M.A., McGivern, B.B., Willi, K.R. et al. A functional microbiome catalogue crowdsourced from North American rivers. Nature 637, 103–112 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08240-z

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