体の中の特別なメッセンジャー「ケトくん」とダイエット
みなさんは、お腹がすいたときに何が起こるか考えたことがありますか?実は、体の中では、食べ物からエネルギーを取り出したり、食欲を調整したりする「特別なメッセンジャー」が働いています。今日は、「ケトくん」(β-ヒドロキシ酪酸、BHBと呼ばれる物質)というメッセンジャーと、その働きについてお話しします。ケトくんは、まるで郵便配達員のように、体の中を巡って大切なメッセージを届ける役割をしているんです!
「ケトくん」って何者?
私たちが食事をしないとき、体は貯めておいた脂肪を使ってエネルギーを作ります。このとき生まれるのが「ケトン体」で、その主役が「ケトくん」(β-ヒドロキシ酪酸)です。ケトくんは、お腹がすいたときに肝臓から出発し、脳や心臓などにエネルギーを届ける「エネルギー配達員」なんです。
たとえば、朝ごはんを食べずに学校に行くと、お昼までの間、体の中ではケトくんが活躍しています。また、「ケトジェニックダイエット」という、パンやごはんをあまり食べない特別な食事方法でも、ケトくんがたくさん作られます。
でも、科学者たちは最近、ケトくんがただのエネルギー配達員ではなく、もっと特別な仕事をしていることを発見しました!
「ケトくん」の新しい友達「アミノくん」
科学者たちは、ケトくんが「アミノくん」(アミノ酸)という別のメッセンジャーと友達になることを発見しました。ケトくんとアミノくんが手をつなぐと、「ケトアミノくん」(BHB-アミノ酸)という新しいメッセンジャーが生まれます!
この二人を引き合わせる役目をしているのが、「CNDP2さん」(カルノシンジペプチダーゼ2という酵素)です。CNDP2さんは、まるで結婚式の司会者のように、ケトくんとアミノくんを仲良く結びつけます。
図1の説明: この絵は、CNDP2さんがケトくん(BHB)とアミノくん(アミノ酸)を引き合わせる様子を示しています。上の部分(A)では、どうやって二人が手をつなぐかの説明です。中央の部分(B-D)では、CNDP2さんが特に「フェニルアラニン」というアミノくんと、ケトくんを仲良くさせることが得意だということがわかります。下の部分(E-I)では、この結びつきがどれくらい強いかの実験結果が示されています。
マウスの体の中にも「ケトアミノくん」がいた!
科学者たちは、マウス(実験用のねずみ)の体の中でも、CNDP2さんがケトくんとアミノくんを結びつけているか調べました。
まず、マウスのどこにCNDP2さんがいるか調べると、腎臓と腸にたくさんいることがわかりました。そこで、腎臓と腸の細胞を取り出して、ケトくんとアミノくんを加えたら、やっぱりケトアミノくんがたくさんできました!
次に、CNDP2さんがいないマウス(CNDP2-KOマウス)を作って同じ実験をしたら、ケトアミノくんがほとんどできませんでした。これは、CNDP2さんがケトくんとアミノくんを結びつける大切な役割をしていることを証明しています。
図2の説明: この絵は、マウスの体のどこにCNDP2さんがいるかを調べた結果です。上の部分(A)では、腎臓と腸にCNDP2さんがたくさんいることがわかります。中央と下の部分(B-F)では、CNDP2さんがいるマウスといないマウスで、ケトアミノくんがどれくらいできるかを比較しています。CNDP2さんがいないと、ケトアミノくんがほとんどできないことがわかります。
「ケトアミノくん」は食事を減らして体重を減らす!
科学者たちは、ケトアミノくんの中でも特に「BHB-Phe」(ケトくんとフェニルアラニンというアミノくんが手をつないだもの)が何をするのか調べました。
太ったマウスにBHB-Pheを注射すると、マウスはあまり食べなくなり、体重が減りました!このとき、マウスの動きや呼吸は変わらなかったので、BHB-Pheは特に食欲に影響していることがわかりました。
面白いことに、ケトくん(BHB)だけ、またはアミノくん(フェニルアラニン)だけを与えても、マウスの食欲や体重は変わりませんでした。二人が手をつないだ「ケトアミノくん」になって初めて、食欲を減らす魔法の力が生まれるのです!
図5の説明: この絵は、BHB-Pheがマウスの食欲や体重に与える影響を調べた実験結果です。上の部分(A-E)では、BHB-Pheを注射されたマウスは食べる量が減りましたが、動きや呼吸は変わりませんでした。中央部分(F-K)では、BHB-Pheを毎日与えると、マウスの体重が減り続けることがわかります。また、BHBやフェニルアラニンを単独で与えても効果がないことも示されています。下の部分(L-M)では、CNDP2さんがいないマウスは、ケトン食を与えても体重が減らないことがわかります。
「ケトアミノくん」はどうやって食欲を減らすの?
科学者たちは、BHB-Pheがどうやって食欲を減らすのか調べるために、マウスの脳の活動を観察しました。すると、BHB-Pheは脳の視床下部や脳幹という部分の神経細胞を活性化させることがわかりました。
これらの脳の部分は、お腹がすいたかどうかを感じ取る「食欲センター」のような役割をしています。BHB-Pheは、このセンターに「もうお腹いっぱいだよ」というメッセージを送っているようなのです。
マウスの脳の中で、BHB-Pheが活性化させる神経細胞を特別な方法で光らせて観察すると、食欲に関係する様々な場所で神経細胞が光りました。これは、BHB-Pheが脳の「食欲回路」に働きかけていることを示しています。
図6の説明: この絵は、BHB-Pheが脳のどの部分を活性化させるかを調べた実験結果です。上の部分(A)は実験方法の説明です。中央部分(B)では、BHB-Pheが視床下部や脳幹のさまざまな領域を活性化させることがわかります。下の部分(C-D)は、活性化された神経細胞の数と場所を詳しく示しています。
人間の体の中にも「ケトアミノくん」はいるの?
科学者たちは、人間の体の中にもCNDP2さんがいて、ケトくんとアミノくんを結びつけるか調べました。
まず、人間のCNDP2さんを取り出して実験したら、マウスと同じようにケトくんとアミノくんを結びつけることがわかりました。次に、人間の細胞からCNDP2さんを取り除いたら、ケトアミノくんが作られなくなりました。
最後に、人間の血液を調べたら、やはりケトアミノくんが見つかりました!さらに、ケトン飲料(ケトくんがたくさん入った飲み物)を飲むと、血液中のケトアミノくんが増えることもわかりました。
これらの結果から、人間の体の中でも、CNDP2さんがケトくんとアミノくんを結びつけて、ケトアミノくんを作っていることが証明されました。
図7の説明: この絵は、人間の体の中でもCNDP2さんがケトアミノくんを作ることを示しています。上の部分(A-B)では、人間のCNDP2さんがケトくんとアミノくんを結びつける能力を持っていることがわかります。中央部分(C-E)では、人間の細胞からCNDP2さんを取り除くと、ケトアミノくんが作られなくなることが示されています。下の部分(F-G)では、人間の血液中にケトアミノくんが存在し、ケトン飲料を飲むとその量が増えることがわかります。
この研究はなぜスゴイの?
この研究は、体の中に新しい「メッセンジャー」を発見したことがスゴイのです!今までケトくんは単にエネルギーを運ぶだけだと思われていましたが、実はアミノくんと手をつないで、食欲を調整するという大切な役割も持っていたのです。
この発見は、肥満やダイエットの新しい理解につながります。例えば、ケトジェニックダイエットがなぜ効果的なのか、その理由の一つが「ケトアミノくん」かもしれません。
また、将来的には、ケトアミノくんを利用した新しいダイエット薬の開発も期待できます。特にBHB-Pheは、食欲を減らすことで体重を減らす効果がありますので、肥満の治療に役立つ可能性があります。
まとめ:この研究でわかったこと
- ケトくん(β-ヒドロキシ酪酸、BHB)は、ただのエネルギー源ではなく、アミノくん(アミノ酸)と結合して新しい物質を作ります。
- その結合を手伝うのがCNDP2さん(カルノシンジペプチダーゼ2)という酵素です。
- ケトアミノくん(BHB-アミノ酸)は、マウスでも人間でも、体の中に存在しています。
- 特にBHB-Pheというケトアミノくんは、マウスの食欲を減らし、体重を減らす効果があります。
- BHB-Pheは脳の視床下部や脳幹の神経細胞を活性化させることで、食欲を調節しています。
- この発見は、肥満の新しい治療法の開発につながる可能性があります。
原論文の引用情報
Moya-Garzon, M.D., Wang, M., Li, V.L., Lyu, X., Wei, W., Tung, A.S.-H., Raun, S.H., Zhao, M., Coassolo, L., Islam, H., Oliveira, B., Dai, Y., Spaas, J., Delgado-Gonzalez, A., Donoso, K., Alvarez-Buylla, A., Franco-Montalban, F., Letian, A., Ward, C.P., Liu, L., Svensson, K.J., Goldberg, E.L., Gardner, C.D., Little, J.P., Banik, S.M., Xu, Y., & Long, J.Z. (2024). A β-hydroxybutyrate shunt pathway generates anti-obesity ketone metabolites. Cell, Published online November 12, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.10.032