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RNAの小さな郵便屋さんが見つけた新しい仕事

みなさんは、お手紙を届ける郵便屋さんを知っていますか?町中を歩いて、大切な手紙やお荷物を配達してくれる人たちですね。実は、わたしたちの体の中にも、「小さな郵便屋さん」がいるんです!それが今日お話するsnoRNA(エスエヌオーアールエヌエー)という分子です。

科学者たちは、この小さな郵便屋さんが、今まで知られていなかった新しい仕事をしていることを発見しました。それは、体の中で作られた大切なタンパク質を、まるで荷物のように体の外に送り出す「配達のお手伝い」という仕事です!

体の中の小さな郵便屋さん「snoRNA」とは?

snoRNAという名前は、「small nucleolar RNA(スモール・ヌクレオラー・アールエヌエー)」の略で、日本語では「核小体小型RNA」と呼ばれます。「小型」という名前の通り、とても小さな分子なんです。

snoRNAは、細胞の中の「核(かく)」という場所、特に「核小体(かくしょうたい)」という部屋に多く住んでいます。ここは、細胞の中の「工場」のような場所で、タンパク質を作るための「リボソーム」という機械が組み立てられています。

snoRNAには、主に2つのタイプがあります:

  1. C/D-box型snoRNA: 「メチル化(めちるか)」という修飾を行います
  2. H/ACA-box型snoRNA: 「シュードウリジン化」という修飾を行います

これらは難しい名前ですが、簡単に言うと、「マーカーペンで印をつける」ような仕事をしています。大切なRNAに印をつけて、正しく働けるようにお手伝いしているんです。

でも、科学者たちはずっと疑問に思っていました。「体の中には1000種類以上ものsnoRNAがいるのに、知られている仕事をしているのは一部だけ。残りのsnoRNAは何をしているんだろう?」

新しい探偵道具「snoKARR-seq」の開発

科学者たちは、snoRNAの秘密の仕事を探るために、新しい道具を開発しました。それが「snoKARR-seq(スノーカー・シーク)」です。これは、snoRNAが体の中で誰と話しているのか(相互作用しているのか)を調べる特別な方法です。

この方法は、まるで「誰かと話している人たちの写真を撮る」ようなものです。snoRNAと、それが接触している他のRNA分子をくっつけて、その「会話の瞬間」を捉えるんです。

従来の方法では、snoRNAの会話相手を見つけるのは、暗い部屋で黒い猫を探すようなものでした。でも、「snoKARR-seq」は、まるで強力な懐中電灯のように、snoRNAの会話相手を100倍以上も見つけやすくしたのです!

図1:snoKARR-seqという新しい方法

図1の説明: これは「snoKARR-seq」という新しい探偵道具の説明です。上の部分(A, B)はsnoRNAがどんな形をしているかを示しています。中央部分(C)は、この新しい方法の仕組みを表しています。snoRNAとその会話相手をくっつけて調べるという特別な方法です。下の部分(D-F)では、この方法がどれだけうまく働くかを示しています。たくさんのsnoRNAを一度に調べられるようになりました!

小さな郵便屋さんたちの意外な会話相手

科学者たちがsnoKARR-seqを使って調べたところ、snoRNAたちは思った以上にたくさんの会話相手がいることがわかりました。特に興味深かったのは、snoRNAが「mRNA(メッセンジャーRNA)」というタンパク質の設計図と話していたことです。

図2:snoRNAとrRNAの相互作用

図2の説明: この図はsnoRNAが「rRNA」という分子と話している様子を示しています。上の部分(A)では、SNORD49AとSNORA57というsnoRNAがrRNAのどの部分と会話しているかを示しています。中央部分(C, D)では、snoRNAとrRNAの会話をヒートマップで表示しています。下の部分(E-H)は、他の方法と比較して、snoKARR-seqがどれだけ詳しく会話を記録できるかを示しています。

科学者たちは、snoRNAとmRNAの会話を詳しく調べました。すると、多くのC/D-box型snoRNAは、mRNAに「メチル化」の印をつける仕事をしていることがわかりました。でも、H/ACA-box型snoRNAのほとんどはmRNAに「シュードウリジン化」の印をつけていませんでした。これは、H/ACA-box型snoRNAには、もっと別の仕事があるのではないかという謎につながります。

図3:snoRNAとmRNAの相互作用

図3の説明: この図はsnoRNAが「mRNA」という分子と話している様子を示しています。上の部分(A, B)では、どんな種類のRNAとsnoRNAが話しているかを示しています。中央部分(C-E)は、U3というsnoRNAが特に好んで話すmRNAの仲間を分析しています。下の部分(F-L)では、snoRNAがmRNAに印(修飾)をつけるかどうかを調べた結果を示しています。C/D-box型snoRNAはmRNAに印をつけますが、H/ACA-box型snoRNAはあまり印をつけないことがわかりました。

SNORA73という特別な郵便屋さん

科学者たちは、「SNORA73(スノーラ・ななじゅうさん)」というH/ACA-box型snoRNAに特に注目しました。このsnoRNAは、他のsnoRNAと違って、分泌タンパク質(体の外に出されるタンパク質)や膜タンパク質(細胞の壁に組み込まれるタンパク質)を作るmRNAとたくさん会話していたのです。

SNORA73は、mRNAと話すときに使う特別な言葉(配列)を持っていました。それを「MBM(mRNA結合モチーフ)」と呼びます。これは、まるでSNORA73が持っている特別な「あいことば」のようなものです。

図4:SNORA73は分泌タンパク質のmRNAと会話する

図4の説明: この図はSNORA73の特別な働きを示しています。上の部分(A-C)では、SNORA73の形と、それがどのようにmRNAと話すかを示しています。中央部分(D-F)は、SNORA73が特に分泌タンパク質や膜タンパク質のmRNAと話すことを示しています。下の部分(G)では、SNORA73とmRNAの会話の強さを測定しています。

SNORA73は分泌タンパク質の「配達」を手伝う

科学者たちは、SNORA73が分泌タンパク質や膜タンパク質のmRNAと話していることから、「もしかしたらSNORA73はタンパク質の分泌を手伝っているのではないか?」と考えました。

そこで、SNORA73を減らす実験をしてみました。すると、クラステリン(CLU)、ガレクチン3結合タンパク質(LGALS3BP)、アルファ1アンチトリプシン(SERPINA1)、アルブミン(ALB)という分泌タンパク質の「配達」(分泌)量が減ったのです!

これは、SNORA73が本当にタンパク質の配達を手伝っていることを示しています。まるで、配達員が休んだら荷物の配達が遅れるようなものです。

図5:SNORA73はタンパク質の分泌を促進する

図5の説明: この図はSNORA73がタンパク質の分泌を助けることを示しています。上の部分(A)は、SNORA73が分泌タンパク質のmRNAとどう結合するかを示しています。中央部分(B-D)では、SNORA73を減らすと、分泌タンパク質の量が減ることを示しています。下の部分(E-H)は、SNORA73が「7SL RNA」という別のRNAとも結合することを示しています。

「三つ巴(みつどもえ)」の関係:mRNA-SNORA73-7SL

科学者たちがさらに調べると、もっと驚くべき発見がありました。SNORA73は、分泌タンパク質のmRNAだけでなく、「7SL RNA」とも会話していたのです!

7SL RNAは、「SRP(シグナル認識粒子)」という、タンパク質を「小胞体」という細胞内の配達センターに運ぶ特別な配達トラックの一部です。SNORA73は、「7BM(7SL結合モチーフ)」という別の「あいことば」を使って7SL RNAと話します。

つまり、SNORA73は「分子のり」のような役割をしていたのです!片方の手でmRNAをつかみ、もう片方の手で7SL RNAをつかんで、二つをくっつける役割をしています。これにより、分泌タンパク質を作るmRNAがSRPという配達トラックと出会いやすくなり、タンパク質の配達がスムーズになるのです。

図6:mRNA-SNORA73-7SLの三者関係がタンパク質分泌を促進する

図6の説明: この図はSNORA73が「分子のり」として働く様子を示しています。上の部分(A, B)は、SNORA73が細胞質のリボソームにも存在することを示しています。中央部分(C)では、SNORA73がmRNAとSRPの結合を助けることを示しています。下の部分(D, E)は、SNORA73の結合能力を変えると、タンパク質の分泌量も変わることを示しています。

科学者たちは、SNORA73の仕組みをさらに詳しく調べるために、いくつかの巧妙な実験をしました。例えば、SNORA73のMBM(mRNA結合モチーフ)や7BM(7SL結合モチーフ)を変えてみたり、人工的なタンパク質を使って分泌を測定したりしました。その結果、SNORA73がmRNAと7SL RNAをつなぐ「分子のり」として働くことで、タンパク質の分泌を助けていることが確認されました。

この「三つ巴の関係」は、まるで郵便屋さん(SNORA73)が、荷物(分泌タンパク質)とトラック(SRP)をうまく出会わせて、配達をスムーズにしているようなものなのです。

図7:snoRNAを介したタンパク質輸送モデル

図7の説明: この図は、SNORA73がどのようにタンパク質の分泌を助けるかのモデルを示しています。上の部分(A)では、mRNA-SNORA73-7SLの三者関係がSRPのリクルートを促進し、タンパク質の小胞体への輸送と分泌を促進する仕組みを示しています。下の部分(B)では、SNORA73がmRNAのリボソームへの結合には影響しないことを示しています。

まとめ:この研究でわかったこと

  1. 科学者たちはsnoKARR-seqという新しい方法を開発して、snoRNAの会話相手を詳しく調べました。
  2. snoRNAはmRNAをはじめ、たくさんの種類のRNAと会話していることがわかりました。
  3. SNORA73というsnoRNAは、分泌タンパク質膜タンパク質を作るmRNAと特によく会話していました。
  4. SNORA73は7SL RNAとも会話していて、「分子のり」のような役割をしていました。
  5. この「三つ巴の関係」によって、SNORA73はタンパク質の「配達」(分泌)を助けていることがわかりました。
  6. これはsnoRNAの新たな仕事の発見であり、体の中のタンパク質輸送についての理解を深めるものです。

この研究は、体の中の小さな郵便屋さん(snoRNA)が、今まで知られていなかった重要な仕事をしていることを明らかにしました。このような発見は、将来的に病気の治療や薬の開発にも役立つかもしれません。例えば、分泌タンパク質の配達を調整することで、様々な病気の治療に応用できる可能性があるのです。

原論文の引用情報

Liu, B., Wu, T., Miao, B. A., Ji, F., Liu, S., Wang, P., Zhao, Y., Zhong, Y., Sundaram, A., Zeng, T.-B., Majcherska-Agrawal, M., Keenan, R. J., Pan, T., & He, C. (2024). snoRNA-facilitated protein secretion revealed by transcriptome-wide snoRNA target identification. Cell, Published online November 22, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.10.046

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