お腹の中の小さな住民たちと健康の関係
みなさんは、自分のお腹の中に何兆もの小さな生き物が住んでいることを知っていますか?これらは腸内細菌と呼ばれる目に見えない小さな生き物で、私たちの体と一緒に暮らしているのです。ちょうど、たくさんの人々が住む大きな町のようなものです。
この研究では、科学者たちが「お腹の中の町の人口(腸内細菌の量)」がどれだけ大切かを調べました。なんと、町の人口が多いか少ないかによって、どんな種類の住民が住んでいるかが大きく変わることがわかったのです!
お腹の中の住民の数を予測する魔法の方法
科学者たちは、うんちの中の細菌の種類を調べるだけで、お腹の中の細菌の総数(微生物量)を予測できる魔法のような方法を開発しました。これは、町の中で「だれが」住んでいるかを知るだけで、「何人」住んでいるかを当てられるようなものです。
この方法を使うと、特別な実験をしなくても、細菌の種類の情報だけから総数を予測できます。科学者たちは、この方法を使って3万4千人以上の人のデータを調べました。これはとても大きな数で、東京ドーム1つ分に入る人の数よりも多いのです!
図1の説明: この図は、腸内細菌の量と種類の関係を示しています。上の図(A)では、点が一人一人の人を表しています。色が濃いほど細菌の量が多いことを示しています。真ん中の図(B)では、3つのグループで細菌の量が違うことがわかります。下の図(C)では、細菌の量と特定の細菌の種類との関係を示しています。
お腹の中の住民の数は何で決まるの?
科学者たちが調べたところ、お腹の中の細菌の数は様々なことと関係していることがわかりました。例えば:
年齢:お年寄りは若い人より細菌の数が9.7%多い!これは、お年寄りのお腹の中では食べ物の通過時間がゆっくりで、細菌が増える時間が長いからかもしれません。ちょうど、町の滞在時間が長いと人口が増えるようなものです。
性別:女の人は男の人より細菌の数が3.5%多い!これも、女性のお腹では食べ物の通過時間が少し長いことと関係しているかもしれません。
うんちの硬さ:水っぽいうんち(下痢)の人は細菌の数が少なく、硬いうんち(便秘)の人は細菌の数が多い!これは、下痢だと食べ物がお腹の中を急いで通過するので、細菌が増える時間が短いからです。町の人々が急いで出て行くようなものですね。
食べ物:肉も野菜も食べる人(雑食)は、野菜だけ食べる人(ベジタリアン)や植物だけ食べる人(ビーガン)より細菌の数が多い!食べ物によって、町の人口が変わるのです。
薬:特に抗生物質(細菌を退治する薬)を飲むと、細菌の数がとても減ります。これは、町に大きな台風が来て、多くの住民が避難するようなものです。抗生物質をやめても、細菌の数が元に戻るには数週間から数ヶ月かかります。
図3の説明: この図は、腸内細菌の量と様々な要因の関係を示しています。(A)と(B)は国によって細菌の量が違うことを示しています。(C)と(D)は細菌の量に影響する要因の強さを示しています。(E)から(J)は細菌の量と様々な要因(うんちの硬さ、排便の頻度、年齢、性別、食事習慣、抗生物質)の関係を示しています。(K)は抗生物質を飲んだ後、細菌の量がどのように回復するかを示しています。
病気とお腹の中の住民の数の関係
科学者たちは26種類の病気と腸内細菌の量の関係も調べました。驚くべきことに、14の病気で細菌の量に大きな違いがありました!
細菌の量が少ない病気:クローン病、潰瘍性大腸炎、肝硬変、C.ディフィシル感染症、HIV感染症など。これらの病気の人は、健康な人より細菌の量が17.3%少なかったです。これらの病気では下痢が起こりやすく、食べ物がお腹の中を早く通過するので、細菌が増える時間が短いのです。
細菌の量が多い病気:便秘、多発性硬化症、大腸がん、高血圧など。これらの病気の人は、健康な人より細菌の量が7.7%多かったです。これらの病気では便秘が起こりやすく、食べ物がお腹の中にとどまる時間が長いので、細菌が増える時間が長いのです。
図4の説明: この図は、病気と腸内細菌の量の関係を示しています。左側の図は、各病気が細菌の量にどのくらい影響するかを示しています。青色は細菌の量が少なくなる病気、赤色は多くなる病気です。真ん中の図は、病気によって増える細菌と減る細菌を示しています。右側の図は、それぞれの病気で調べた人の数を示しています。
病気と細菌の種類の関係は「町の人口」で説明できる?
科学者たちは、「病気と特定の細菌の関係」が本当に病気によるものなのか、それとも単に「細菌の総数の変化」によるものなのかを調べました。
驚くべきことに、多くの病気で見つかっていた「特定の細菌との関係」は、実は細菌の総数(町の人口)の変化で説明できることがわかりました!例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、肝硬変などの病気で、多くの細菌種との関係は単に細菌の総数が減るからだったのです。
これは、町の人口が減ると、特定の種類の住民(例えば、お菓子屋さんやおもちゃ屋さん)も少なくなるのは当然、というようなものです。病気になったから特定の細菌が減ったのではなく、下痢などで細菌の総数が減ったから特定の細菌も減った、ということです。
図5の説明: この図は、細菌の量を考慮すると病気と細菌の関係がどう変わるかを示しています。(A)は細菌の量を考慮すると、病気の影響がどれだけ小さくなるかを示しています。(B)は各細菌種の統計的な重要性が、細菌の量を考慮するとどう変わるかを示しています。(C)は細菌の量を考慮すると、病気と関連する細菌の数がどう変わるかを示しています。(D)は細菌の多様性と病気の関係が、細菌の量を考慮するとどう変わるかを示しています。(E)は細菌の量を考慮すると関係が弱くなる代表的な細菌を示しています。
この研究はなぜスゴイの?
この研究がすごい理由は、お腹の中の細菌の「種類」だけでなく「数」も大切だということを教えてくれたからです。今までの研究では、細菌の種類だけに注目して、数はあまり考えていませんでした。
特に、病気と細菌の関係を調べるときには、細菌の総数の変化を考えることが大切だとわかりました。これは、町の問題を考えるとき、「どんな人が住んでいるか」だけでなく「何人住んでいるか」も大切なのと同じです。
将来、この研究の成果を使って、もっと正確に腸内細菌と健康や病気の関係を理解できるようになるでしょう。そして、腸内細菌を使った新しい治療法や診断法の開発につながるかもしれません。
まとめ:この研究でわかったこと
- 腸内細菌の量は、どんな種類の細菌が住んでいるかに大きく影響します。
- 科学者たちは、細菌の種類のデータだけから細菌の総数を予測できる方法を開発しました。
- 年齢、性別、食べ物、薬など様々な要因が腸内細菌の量に影響します。
- 多くの病気は腸内細菌の量と関係があります(下痢を起こす病気では少なく、便秘を起こす病気では多い)。
- 病気と特定の細菌種の関係の多くは、実は細菌の総数の変化で説明できます。
- 腸内細菌の研究では、細菌の種類だけでなく量も考慮することが大切です。
原論文の引用情報
Nishijima, S., Stankevic, E., Aasmets, O., Schmidt, T.S.B., Nagata, N., Keller, M.I., Ferretti, P., Juel, H.B., Fullam, A., Robbani, S.M., et al. (2024). Fecal microbial load is a major determinant of gut microbiome variation and a confounder for disease associations. Cell, Published online November 14, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.10.022