お友だちとシェアする!おなかの中の小さな生き物たち
みなさんは、お友だちとおもちゃや本を貸し借りしたことがありますか?実は、わたしたちのおなかの中にいるとっても小さな生き物たちも、人と人との間で「貸し借り」されていることがわかったんです!これは、まるで目に見えない「プレゼント交換会」のようなものなんですよ。
おなかの中には「ちいさな街」がある!
わたしたちのおなかの中には、微生物(びせいぶつ)と呼ばれるとっても小さな生き物たちがたくさん住んでいます。これらの微生物は、顕微鏡でしか見えないほど小さいけれど、わたしたちの体にとってとても大切なお仕事をしています。この微生物たちは、まるでおなかの中に小さな街を作っているようなもの。いろんな種類の微生物が、それぞれ違うお仕事をしながら一緒に暮らしているんです。
科学者たちは、中南米のホンジュラスという国の18の小さな村で、1,787人の大人たちのおなかの中の微生物を調べました。これらの村は、大きな町やまちから離れた場所にあって、人々は昔ながらの生活をしています。
お友だちの輪と微生物の輪
科学者たちはまず、村の人たちに「誰とよく一緒に時間を過ごしますか?」「誰を信頼していますか?」などの質問をして、村の中の人間関係のネットワーク(お友だちの輪)を地図のように描きました。それから、みんなのウンチのサンプルを集めて、おなかの中にどんな微生物がいるのかを調べました。
すると驚くべきことがわかりました!おなかの中の微生物は、人間関係に沿って共有されていたのです。これは、まるで学校のクラスでインフルエンザが広がるように、でも良い意味で、微生物も人から人へと移動していたということなんですよ。
図1の説明: この図は、さまざまな関係の人々の間で微生物がどれくらい共有されているかを示しています。夫婦や同じ家に住む人々が最も多くの微生物を共有していますが、友だち同士でも微生物の共有が起きています。また、一緒に過ごす時間や食事を共にする回数が多いほど、より多くの微生物を共有しています。
どんな人間関係で微生物を「シェア」するの?
科学者たちが発見したのは、微生物の共有はいろいろな種類の人間関係で起こるということでした。
- 夫婦や家族の間での共有が最も多い(約14%の微生物を共有)
- でも驚くべきことに、血のつながりがなく、別々の家に住んでいる友だち同士でも微生物の共有が見られた(約8%)
- 同じ村に住んでいても交流のない人同士ではあまり共有されていない(約4%)
- 別々の村に住む人同士ではさらに共有が少ない(約2%)
これは、まるで友だちとおやつを分け合うように、微生物も親しい人同士で「おすそわけ」されているようなものです。
特に面白いのは、一緒に過ごす時間が長い人同士ほど、微生物の共有が多いということ。毎日会う友だちとは、月に1回しか会わない友だちよりも、より多くの微生物を共有していました。これは、よく遊ぶ友だちとは、トレーディングカードもたくさん交換するのと似ていますね。
また、一緒に食事をする頻度も重要でした。頻繁に一緒に食事をする人同士ほど、微生物の共有が多かったのです。これは、一緒に給食を食べる友だちと、同じような好みになってくるのに似ているかもしれませんね。
微生物のバトンリレー:友だちの友だちまで届く!
もっと驚くべきことに、微生物の共有は直接の友だちだけでなく、友だちの友だちにまで広がっていました!これは、まるでうわさ話や流行が広がるように、微生物も人から人へとバトンリレーのように渡されていくということです。
図4の説明: この図は、社会的な距離(何人の人を介して知り合いか)と微生物の共有の関係を示しています。直接の友だちだけでなく、友だちの友だち(2度目のつながり)でも微生物の共有が見られました。また、村の中で多くの友だちを持つ「人気者」は、村全体と似た微生物を持っています。逆に、少数の友だちとだけ親しい人は、その友だちと特に似た微生物を持っています。
人気者の微生物はみんなと「ちょっとずつ」似ている
村の中でたくさんの友だちがいる人(人気者)は、おもしろいことに、村の多くの人と少しずつ微生物が似ていることがわかりました。これは、クラスの人気者が多くの友だちと少しずつ趣味を共有しているようなものです。
一方、友だちが少ない人は、その少数の友だちとはとても似た微生物を持っていることがわかりました。これは、仲良し3人組などの小さなグループでは、みんながよく似た趣味や好みを持つようになるのに似ていますね。
友だちグループと微生物グループは一致する!
村の中には自然と形成される友だちグループがあります。たとえば、よく一緒に遊ぶ子どもたちのグループや、よく集まるおとなたちのグループです。科学者たちは、このような人間関係のグループと、微生物の類似性によるグループを比較しました。
驚くべきことに、人間関係のグループと微生物のグループは、かなり一致していたのです!これは、まるでサッカークラブに入っている子どもたちが同じユニフォームを着ているように、同じグループの人々は似たような微生物を持っているということなんです。
図5の説明: この図は、人間関係のグループ(社会的クラスター)と微生物の類似性によるグループ(微生物クラスター)が一致していることを示しています。友だちグループごとに、特徴的な微生物の種類があることがわかります。これは、友だちグループごとに好きな遊びや流行があるのと似ています。
時間が経っても続く微生物の共有
科学者たちは、2年後に4つの村の人々(301人)を再び調査しました。すると、友だち関係にある人同士は、そうでない人よりも時間が経っても微生物の共有が増える傾向があることがわかりました。
これは、長く付き合う友だちほど、だんだんと趣味や好みが似てくるのに似ています。友だち関係が続くことで、微生物も継続的に共有され続けるのですね。
図3の説明: この図は、2年後の微生物の共有状況を示しています。友だち関係にある人同士は、そうでない人よりも微生物の共有が増えていることがわかります。これは、友情が深まるにつれて微生物も共有されていくことを示しています。
なぜこの研究は重要なの?
この研究は、わたしたちの健康と人間関係が思っていた以上に深く結びついていることを教えてくれます。
おなかの中の微生物は、わたしたちの健康にとても重要です。消化を助けたり、病気から守ったり、気分を良くしたりする手伝いをしています。そして今回、これらの微生物が人間関係に沿って共有されることがわかりました。
つまり、わたしたちの健康は、誰と付き合うかによっても影響を受ける可能性があるのです。これは、まるでクラスの雰囲気が友だち関係に影響するように、わたしたちの体の中の「微生物コミュニティ」も、人間関係によって形作られるということなんですよ。
まとめ:この研究でわかったこと
- わたしたちのおなかの中にはたくさんの微生物がいて、小さな街のように共存しています。
- これらの微生物は、人から人へと共有されます。特に親しい関係の人同士で多く共有されます。
- 微生物の共有は、家族や同居人だけでなく、友だちや知り合いとの間でも起こります。
- 一緒に過ごす時間や食事を共にする頻度が多いほど、微生物の共有も多くなります。
- 微生物の共有は友だちの友だちにまで広がることがあります。
- 村の中心的な人物(多くの友だちがいる人)は、村全体と似た微生物を持っています。
- 友だちグループと微生物グループは一致する傾向があります。
- 時間が経っても、友だち関係にある人同士の微生物は似てくる傾向があります。
この研究は、わたしたちの体の中の小さな生き物たちが、友だち関係を通じて「社交活動」をしているようなものだと教えてくれました。人間関係が微生物の世界にも影響を与えているなんて、とても不思議で面白いことですね!
原論文の引用情報
Beghini, F., Pullman, J., Alexander, M., Shridhar, S. V., Prinster, D., Singh, A., Juárez, R. M., Airoldi, E. M., Brito, I. L., & Christakis, N. A. (2025). Gut microbiome strain-sharing within isolated village social networks. Nature, 637(7947), 167-175. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08222-1